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言霊怪奇譚  作者: Mr.M
二章 同じ穴の狢

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第29話 彫像

シャワーを浴びて部屋に戻ると、

浮橋はベッドでいびきをかいていた。

たるんだ毛むくじゃらの体の

股の間から小さな蓑虫が顔を出していた。

浮橋は思った以上に悪くはなかった。

何より。

アタシを悦ばせようと、

必死に腰を振っていたのは、

素直に好感が持てた。


アタシは服を着てから部屋を出た。


午前5時30分。

東の空が微かに色付き始めていた。


火照った体が静まると、

ふたたび怒りが込み上げてきた。

その怒りの矛先は竜次ではなく、

牡丹に対してだった。

何でアタシが

こんな思いをしなきゃならないのよ。

どうして牡丹なんかに負けるのよ。

こんなことなら。

いっそのこと。

あの時、

死ねばよかったのに・・。


アタシは人気のないホテル街の、

ビルとビルの谷間を

1人フラフラと歩いていた。


「・・そこの若けぇの」

大通りへ出る直前、

ふいに背後から呼び止められた。

振り向くと、

路肩にみすぼらしい老婆が

座り込んでいた。

長い白髪。

皺だらけの顔。

開いてるのか閉じてるのかわからない目。

垂れた鷲鼻。

物乞いか?

いや。

そんなことよりも。

歩いてきた時には、

その存在に気付かなかった。

一体どこから現れたのか。

「何か買うていきな。

 安くしとくでのう」

よく見ると。

老婆の目の前には

風呂敷が広げられていて、

その上には

数々の雑貨と言う名のゴミが並んでいた。

トイレットペーパー。

欠けたコップ。

くすんだ銀色のスプーン。

新品かどうかもわからない歯ブラシ。

ボロボロのクマのぬいぐるみ。

消費期限の怪しいカップラーメン。

生理用品。

等々。

それらを見てアタシは察した。

これは対価なのだと。

近頃は路上での物乞いは禁止されている

と聞いたことがある。


アタシは仕方なく財布を開いた。

1万円札が5枚と

1000円札が6枚あった。

アタシは1000円札を1枚取り出した。

そして。

くすんだ銀色のスプーンを手に取った。

その時。

アタシの目がガラクタの中にある

妙な形をした石を見つけた。

それは。

木の洞から

2匹の狸が顔を出している様子が

彫られた真っ白な石だった。

大きさは掌にすっぽり収まるほど。

アタシは何かに憑かれたように

ソレを手に取った。

大きさの割に、

ずっしりとした重量感があった。

質感はツルツルとしていて、

ひんやりと冷たかった。

こうして触って初めて、

ただの石ではないことに気付いた。

かと言って、

その材質が何なのかはわからない。

変な物・・。


「おめぇ。

 それに目ぇ付けたのかい?

 だども。

 そいつはちぃとばかし高ぇぞ

 きゃっきゃっきゃ」

老婆は口を大きく開けて笑った。

口の中には、

黒ずんだ歯が3本だけ残っていた。

「高いっていくら?」

アタシは老婆の話に付き合った。

「そうさなぁ。

 5本ばかし置いていきな」

「5本?

 5千円かい?

 随分がめついんだね、婆ちゃん」

アタシは改めて

財布から1000円札を4枚取り出した。

「馬鹿言うでねぇ。

 5本っつたら。

 5万だよ」

「は、はぁぁ?

 5万円?

 ぼったくりじゃんっ。

 婆ちゃん。

 冗談も休み休み言いなよ。

 アタシは善意で買ってあげるんだよ」

「きゃっきゃっきゃ。

 そいつは。

 ただの石ころでねえ。

 呪物っつうんだよ」

「はぁ?

 じゅぶつ?

 何それ?」

アタシは眉をひそめた。

「きゃっきゃっきゃ。

 その名の通り、

 人を呪う道具だ」

「へっ?」

「呪いっつうのはな、

 人々の思いなのさ。

 呪物っつうのは、

 そんな人々の思いが、

 長い月日をかけて形になったもんだ。

 その思いは重てえ。

 故に。

 その効果も絶大だ。

 だども。

 使い方を間違ぇると、

 自分に返ってくる。

 聞いたことがあるだろ。

 『人を呪わば穴二つ』とな。

 きゃっきゃっきゃ」

そして老婆は大袈裟に笑い声をあげた。

「ははっ。

 ばっかみたい。

 何よそれ」

「信じるも信じねえも、

 おめぇさんの勝手だが。

 兎に角。

 そいつが欲しいなら金を置いてけ。

 5本っつうのは、

 その呪物の説明込みの値段だ」

新手の詐欺か。

それとも・・単なる物乞いか。

私は手の中のそれを見た。

それはアタシの体の一部にでも

なったかのように、

手のひらにずっしりと馴染んでいた。

「おめぇの持っとるそいつはな。

 『同じ穴の狢』っつうんだ」

老婆の声が遠くから聞こえてきた。

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