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言霊怪奇譚  作者: Mr.M
二章 同じ穴の狢

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28/52

第28話 疼き

この日。

店が終わってから、

アタシは『エデン』の扉を開いた。

席に現れた竜次が

アタシの顔を見て目を見開いた。

「な、何で店に来るんだよ!」

そう小声で捲し立てると、

竜次は他のキャストを追い払って、

アタシの隣に座った。

「アタシのメッセージを無視するからよ。

 牡丹と一緒に暮らすんだって?」

「お、お前に関係ねーだろ」

「そうね。

 アンタらが同棲するのは

 別に構わないけど。

 何の説明もなく、

 アタシを捨てるなんて、

 ちょっと都合がよすぎない?」

「そ、それに関しては悪ぃと思ってるよ。

 けど。

 どうしようもねーんだ」

「はぁ?

 何がどうしようもないわけ?」

「そんなことお前に説明したところで、

 意味がねーから。

 兎に角。

 お前とは終わりなんだよ。

 もう二度と俺には連絡するな。

 それと。

 店にも来るなよ」

そう吐き捨てると竜次は立ち上がった。

「ちょっと!

 いいの?

 そんなこと言って。

 アンタの浮気相手がアタシだってこと、

 牡丹に話すわよ?」

「好きにしろよ。

 今更、

 そんなことはどーでもいいんだよ。

 俺は二度と

 あいつを裏切ることはねーから」


アタシは苛立ちを抱えたまま、

『エデン』を出た。

行き場を失った激しい衝動が、

胸の奥でせめぎ合っていた。

無性に体が疼いていた。

アタシはスマホを取り出した。

午前3時。

こんな時間に呼び出して、

ホイホイと駆けつけてくる男。

すぐにあの男の顔が頭に浮かんだ。


浮橋一夫うきはし かずお


白髪交じりのボサボサの髪は

いつも脂ぎっていて、

短い眉の下の大きな一重の目は丸く、

尖った鼻と小さな唇が並ぶその顔立ちは、

どこか爬虫類を思わせた。

40代半ばの冴えない中年の男。

店に来る時はいつも汚れたジャージ姿。

見るからに金のなさそうなヤツ。

それでも。

金払いは悪くなかった。

人は見かけによらない。


「誰だ!馬鹿っ!

 こんな時間にぃぃぃ!

 こっちは寝てんだよ!

 殺すぞっ!」

5度目の呼び出し音の後で、

怒鳴り声が聞こえた。

「ごめん。

 アタシ、ジェラだけど・・」

「へっ!

 じぇ、ジェラっ?

 それって・・ま、まさか・・?」

「ごめんね。

 寝てたのね」

「い、いや!

 丁度起きようと思ってたんだ!

 それより。

 どうしたんだよ!

 連絡くれるなんて初めてじゃねえか!」

さっきまでの荒々しい怒鳴り声が

嘘のように、

弾けるような明るい声が返ってきた。

アタシは思わずスマホを耳から離した。

「今ね。

 1人で飲んでたんだけど。

 体が火照っちゃってて。

 誰でもいいから、

 滅茶苦茶に抱いてくれないかなぁ、

 なんて考えてたとこなの」

「へっ・・へっ?」

「ま。

 嫌なら別の人を探すから気にしないで」

「い、行くさ!

 俺でいいならすぐに飛んで行くぜ!」

「急いでね。

 アタシの熱が冷めないうちに」


通話が終わってきっかり15分後。

目の前にタクシーが止まった。

「釣りはいらねえから」

開いたドアの隙間から、

浮橋が皺くちゃの1000円札を数枚、

運転手に押し付けているのが見えた。

「遅いわよ。

 だいぶ熱が冷めたわ」

「おいおい。

 そりゃねえぜ。

 こ、これでも急いだんだぜ」

浮橋はそう言って口を尖らせた。

浮橋はいつも店に来る時と同じ

上下茶色の薄汚れたジャージを着ていた。

アタシはわざとらしく溜息を吐いた。

ま。

ベッドに入れば

服なんてどうでもいいんだけど。

それよりも。

問題は浮橋のモノ。

はたしてちゃんと機能するのか。

こればかりは

試してみないとわからない。

「行くわよ」

アタシは浮橋の返事を待たずに

歩き出した。

「えっ・・あ、ああ。

 待ってくれよ」

背後から弱々しい声と共に、

慌ただしい足音が聞こえてきた。


葛城町の歓楽街を抜けて、

大通りを渡ると、

ラブホテルがひしめき合う一角に出る。

アタシはその中の1つ

『オリエンタル』に入った。

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