第22話 呪物
「・・仮に。
あなたの言う通り。
これが交換殺人だったとして。
僕には上京を殺す動機はありません」
「本当にそうでしょうか?
源之介の調査によれば。
あなたは上京さんが亡くなったことで、
砧明日美さんと
付き合えるようになったと。
それは動機になりませんか?」
僕はグラスの中で動かしていた
ストローを止めた。
椋鳥はその口調こそ丁寧だったが、
発言には一切の遠慮がなかった。
「わかりました。
あなたの推理通り、
僕が岩倉と西陣を襲ったとして、
なぜ岩倉に
とどめを刺さなかったんですか?
結果的に。
岩倉が死んだからよかったものの、
もし目を覚ましていたら。
僕は捕まっていました。
それに。
いくら不意打ちでも。
2人を相手に
僕が無傷で済むはずはありません。
さらに言えば。
素手に拘る意味もない・・」
僕の反論を椋鳥は静かに聞いていた。
僕はそっとストローに口をつけた。
「それは。
あなたが『呪い』を使ったからです」
椋鳥の口から出た呪いという言葉に
僕はハッと息を呑んだ。
「は、はは・・。
の、呪い・・ですか?
櫓さんもそんなことを
口にしてましたけど。
馬鹿馬鹿しい。
呪いなんて
存在するわけがないでしょう」
僕はすぐに否定した。
椋鳥が真っ直ぐ僕の目を見ていた。
どくん。
心臓が大きく跳ねた。
僕は慌てて視線をそらした。
「・・どうやら。
本当に心当たりがないようですね。
それならば。
呪いを使ったのは松葉さんか、
それともまったく別の人間でしょうか」
その言葉に僕は首を捻った。
椋鳥にしろ櫓にしろ。
本当に呪いの存在を
信じているのだろうか。
椋鳥はゆっくりとストローを
かき回していた。
「そうですね。
突然、
呪いと言われても
信じられないでしょうね。
ですが。
呪いは本当に存在するのです」
そう言って彼女は
ストローから手を離した。
「言霊って知っていますか?
『言葉には霊力がこもっている』
という古代からの信仰ですが、
簡単に言えば、
口にしたことが現実になる
ということです。
例えば・・そうですね。
健常者が医者に重い病を宣告されると、
本来は異常がないにもかかわらず、
次第に弱っていくというようなことは、
現実でもよく観察されています」
僕は頷いた。
「長い年月を重ねて
語り継がれてきた言葉の中には、
言霊として現実に
その形を成したモノがあるのです。
私達はそれらを『呪物』
と呼んでいるのですが・・」
「じゅぶつ・・ですか」
僕は首を傾げた。
「そうです。
色や形は様々で、
大きさは・・そうですね。
私達がこれまで確認した物は、
どれも掌サイズでした。
一見しただけでは、
その辺に落ちている石ころと
区別がつかないような物ですが」
石ころという言葉に、
あの日見た光景がパッと蘇った。
明日美の机の引き出しの中に
入っていた物。
まさかあれは・・。
「・・ですが。
それは金槌で打とうとも、
ノミで削ろうとも、
傷1つ付かないのです」
僕は動揺を隠そうと、
ストローに口をつけて、
アイスコーヒーを啜った。




