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言霊怪奇譚  作者: Mr.M
一章 明日は明日の風が吹く

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21/60

第21話 交換殺人

僕達は『明星学園』から

少し離れた所にある

ファミリーレストラン

『桐壺亭 千代田町店』

に入った。

夕暮れの光が窓から射し込み、

店内を淡く染めていた。

僕達以外に客は2組しかいなかった。

奥の席では

学生らしき3人の少女達が

声を潜めて話し、

窓際では

くたびれた1人のサラリーマンが、

ドリンクを手に、

ただぼうっと外を眺めていた。

店の隅々まで

どこか気の抜けた空気が漂っていた。


「遠慮せずに好きな物を頼んで下さい。

 小さな会社ですが、

 経費は使い放題なので」

テーブル席に着くなり、

椋鳥はそう言って微笑んだ。

「家に帰ったら晩御飯があるので、

 飲み物だけにしておきます」

僕はそう断ってアイスコーヒーを頼んだ。

彼女はオレンジジュースを注文した。


「それで話というのは何ですか?」

注文した品を運んできたウエイターが

立ち去るのを待ってから、

僕は改めて口を開いた。

椋鳥はグラスにストローを挿すと、

口をつけずに話し始めた。

「そうですね。

 ひと月前に

 『明星学園』の生徒が襲われた

 2つの事件に関してですが。

 3人の被害者達は

 同時刻に襲われたという共通点の他に、

 もう1つ。

 興味深い共通点がありました。

 これは公にはなっていないのですが、

 3人への暴行はすべて、

 素手によるものだということです」

「えっ・・す、素手ですか?」

「はい。

 3人は皆、

 素手により殴り殺されたのです」

背筋に冷たいものが走った。

同時に。

ニュースにもなっていないその情報を、

なぜ警察でもない彼女が知っているのか、

疑問に思った。

「源之介は

 2つの事件は同一犯による犯行だと

 考えていましたが、

 私は別の可能性を考えています」

「別の・・可能性ですか」

「はい。

 あの事件があった日の夕刻。

 クラスメイトの松葉肇さんが、

 酷い怪我をしたそうですね?」

僕は直接グラスに口をつけると、

一口だけアイスコーヒーを飲んだ。

そしてゆっくりと頷いた。

肇は事件の翌日から

ずっと学校を休んでいた。

担任の黒木が言うには、

怪我をして自宅療養中とのことだった。

「松葉肇さんは

 岩倉さんと西陣さんから

 イジメを受けていた」

僕はもう一度、

今度は大きく頷いた。

「松葉さんの怪我の原因は、

 きっと岩倉さんと西陣さんに

 よるものでしょう」

椋鳥の話に耳を傾けながらも、

僕はあの日の放課後、

岩倉と西陣に連れられて

裏門から出ていく肇のことを

思い出していた。

「私は松葉さんが、

 2人に復讐をしたのではないか

 と考えています」

椋鳥が力強く言い放った。

僕は改めてアイスコーヒーで

唇を湿らせた。

それから徐に口を開いた。

「それは無理です。

 確かに。

 肇には2人を殺す動機があります。

 でも。

 あなたは先ほど

 3人は素手で殴り殺された

 と言いました。

 岩倉だけならまだしも。

 肇が西陣を殴り殺すなんて、

 絶対に不可能です」

そんな僕の反論にも

椋鳥は涼しい顔をしていた。

「ですから。

 これは交換殺人ではないかと」

椋鳥が静かに答えた。

「交換殺人?」

「ええ。

 1人では無理でも。

 2人なら・・」

「どういうことですか?」

「松葉さんが殺したのは上京さん。

 そして。

 岩倉さんと西陣さんを殺したのは、

 あなたです」

そう言って椋鳥はにこりと微笑んだ。


奥の席から

少女達の笑い声が聞こえてきた。

同時に。

窓際のサラリーマンが

伝票を持って立ち上がった。

僕はもう一度グラスに口をつけた。

「あなたは。

 幼い頃から

 空手や柔道を習っているようですね。

 2人を相手にするくらい

 朝飯前でしょう。

 あなたと松葉さんは、

 お互いに殺したい相手を交換した。

 そして。

 時間を決めて3人を襲った」

椋鳥はそこで言葉を止めると、

そっとストローに唇を当てた。

僕は彼女が話し出すのを待った。

「・・交換殺人には

 様々なメリットがあります。

 その最たるものは、

 アリバイです。

 どれほど動機があろうとも、

 殺害時刻にアリバイがあれば、

 容疑者になりえません。

 ですが。

 この事件の場合。

 同時刻に殺害していることから、

 アリバイに関しては

 何のメリットにもなりません。

 この場合のメリットは。

 被害者を油断させることです。

 被害者達はあなた達を見た時、

 まさか自分達を殺しに来たとは

 考えなかったでしょう。

 その油断に乗じて、

 あなたと松葉さんは、

 彼らを葬り去った」

そう言うと、

椋鳥はふたたびストローに唇を当てて、

上目遣いに微笑んだ。

僕は飲みかけのグラスに

シロップとミルクを入れた。

それからストローでかき混ぜた。

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