第20話 女
7月も半ばに差しかかり、
あの事件から1か月が過ぎた。
だが、
いまだに犯人は捕まっていない。
そんな中。
今朝。
担任の黒木が神妙な顔で
教室に入ってきた。
皆、
黒木が何を言い出すのか、
固唾を呑んで見守っていた。
そして。
僕達は
岩倉が死んだことを聞かされた。
誰もが驚いた顔をしていた。
しかしそれは、
どこか予感していたことでもあった。
放課後。
鞄に教科書をしまいながら、
何気なく教室を見回すと、
すでに明日美の姿はなかった。
校舎を出たところで、
校門の前に明日美を見つけた。
明日美は黒いスーツ姿の女性と
何やら話し込んでいた。
身長は明日美よりもやや低く、
年の頃は20代半ばだろうか。
腰のあたりまで流れる長い髪は
やや赤みを帯びた橙色で、
光の当たり方によっては
夕焼けのように柔らかくも、
炎のように鮮やかにも見えた。
くっきりとした二重の目は、
目尻が細くすっと流れていて、
どこか寂しげに見えた。
高い鼻と薄い唇は形がよく、
白い肌は若干血の気が薄かった。
そのせいか。
橙色の髪との対比が際立ち、
儚く脆い印象を受けた。
明日美とはまた違った類の美人だった。
ふいに明日美が僕に気付き、
こっちを指さした。
警戒心と疑問を抱きつつ、
僕は2人の方へ歩を進めた。
名も無き美女が
僕の様子を窺っているのがわかった。
その時。
明日美がくるりと彼女に背を向けて、
歩き出すのが見えた。
「三宝院崇・・さん」
僕が校門に近付くと、
名も無き美女が口を開いた。
その声は鈴の音のように澄んでいた。
僕は足を止めて彼女を見た。
「今、明日美と話してましたよね?」
「ええ。
あなたのことを聞いていました。
そうですか・・彼女が。
砧明日美さんだったのですね」
名も無き美女の言葉に僕は眉をひそめた。
「僕に・・何か用ですか?」
「少し前に。
櫓源之介という人が
訪ねてきませんでしたか?
私と彼は、
一緒に仕事をしているのですが」
「あっ・・」
僕はハッと息を呑んだ。
「源之介は今、
別件で手が離せないので、
私が代わりに
話を伺いにきました」
名も無き美女は頭を下げると、
名刺を取り出した。
僕はそれを受け取った。
(名)Luna Plena
椋鳥京花
「できれば。
場所を移して話せませんか?」
椋鳥が僅かに口元を綻ばせた。
それは明日美にも負けないほど
魅力的な笑顔だった。
しかし。
僕はなぜか不安になった。
それでも。
僕は無意識のうちに頷いていた。




