第11話 松葉肇
翌日の放課後。
僕は教室を出ていった肇の後を追った。
「肇っ!」
校門の前で、
僕は周りに誰もいないことを
確認してから、
肇の背中に向かって呼びかけた。
肇はビクッと体を震わせると、
恐る恐る振り返った。
「たか・・ちん?」
そして声の正体が僕だとわかると、
肇は表情を和らげて小さく微笑んだ。
「最近どう?」
僕は肇の許へ駆け寄って声を掛けた。
「どう・・って?」
肇は首を傾げた。
「い、いや・・その・・。
元気かなって」
「変なことを聞くね。
毎日教室で顔を合わせてるのに」
「そ、それはそうだけど・・。
こうして話すのって久し振りだからさ」
「俺と仲良くしてるのを見られると、
岩倉や西陣に狙われるからね」
そう言って肇は笑った。
僕は返す言葉が見つからず黙り込んだ。
「じゃ。
たかちん、俺はこっちだから」
校門を出た肇が東へ足を向けた。
僕は慌てて追いかけた。
「折角だから。
久しぶりに僕もそっちから帰ろうかな」
「えっ?
遠回りだろ、たかちん?」
「いいんだ」
僕達は並んで歩きだした。
僕はどうしても確認したいことがあった。
昨夜見た厚紙に書かれた名前。
なぜ上京の名前が書かれていたのか。
その理由に心当たりがあった。
小学校の時。
僕は肇から明日美のことで
相談されたことがある。
その時僕は
「物好きだな」
と揶揄った覚えがある。
そんな僕に向かって肇は
「たかちんは見る目がないね。
明日美ちゃんは美人になるよ」
そう言ったのだ。
結局。
肇のその言葉は正しかったわけだが。
「あのさ。
明日美のことだけどさ・・」
思い切って切り出したものの、
その後が続かなかった。
「う、うん?」
肇が目を丸くした。
僕は一度大きく息を吸い込んだ。
「もしかしてだけど。
肇はまだ明日美のことが・・?
その・・」
「うん。
好きだよ。
どんな願いでも
1つだけ叶えてくれるなら、
俺は明日美ちゃんと・・結婚したい」
肇はそう堂々と宣言した。
「結婚なんて、
気が早すぎるだろ」
僕は軽口を叩いたが、
心の中では、
自分の気持ちに正直な肇を
羨ましいと思った。
「・・実はね。
中学の卒業式の日。
思い切って告白したんだ。
当然。
フラれちゃったけど」
そして肇は恥ずかしそうに頭を掻いた。
「それでさ。
肇は・・その・・。
上京のことをどう思ってる?」
肇の足が止まった。
「どうって?」
「その・・。
上京は明日美と付き合ってるからさ」
「あいつに。
明日美ちゃんと付き合う資格はない。
明日美ちゃんは騙されてるんだ」
肇は小さな声で、
それでいてはっきりと呟いた。
「そうは言ってもさ。
明日美が上京に惚れたのなら、
仕方がないだろ?
人が人を好きになるのに
理由はないからな」
「たかちんって、
いつの間にか大人になったね」
「そ、そんなことはないだろ・・」
「俺は駄目だ。
まだ子供だよ」
そう言って微笑んだ肇の柔らかな表情を
僕は随分久しぶりに見た気がした。
「・・イジメのこと。
誰かに相談したか?」
「ううん。
親には心配をかけたくないんだ。
俺ん家ってさ。
そんなにお金があるわけじゃないのに、
無理言って私立に通わせて
もらってるじゃん。
だからこれ以上はさ」
肇が恥ずかしそうに頭を掻いた。
「ゴメンな、肇。
力になれなくて」
僕は小さな声で謝った。
「いいよ。
それより。
明日美ちゃんの流出動画。
あれってやっぱりたかちんだろ?」
「えっ!」
「あんな動画を撮れるのは、
たかちんしかいないじゃん?」
「ちょ、ちょっと待てよ。
あれはフェイク動画
って話になっただろ?」
「へへっ。
あれはフェイクじゃないよ。
それくらい俺にだってわかるさ。
たかちんもわかってるだろ?」
肇の目が真っ直ぐに僕を見ていた。
僕は肇から目をそらして、
大きく溜息を吐いた。
「たしかに。
あれは本物の盗撮動画だと思う。
でも。
本当に僕は何も知らないんだ」
「本当に・・たかちんじゃないの?」
肇が大きく首を傾げた。
肇の目はまだ完全に僕の言葉を
信じていないように見えた。
「そっか。
たしかに犯人がたかちんだとしても、
拡散する必要はないもんね。
だとしたら。
やっぱり犯人は松平先輩なのかな」
肇がぽつりと呟いた。
僕は一瞬、
耳を疑った。
あの動画が広まったのは
生徒会長選挙の時。
「松平さんが明日美を陥れるために
仕組んだ・・。
肇はそう言いたいのか?」
「あり得ないことはないんじゃない?
松平先輩が直接行動したのか、
もしくは誰かを使ったのか、
それは定かじゃないけど。
でも結局はそれが
裏目に出ちゃったけどね」
そう言って肇は「ははは」と笑った。




