葬式
明けて次の日、俺は特急で王都まで向かい、なんとかして俺の財宝を隠してくれたミリアと合流。
急いで買ってきた既製品の喪服に身を包み、二人で湿っぽい雰囲気の中で村の広場へとやってきていた。
手を合わせながら視線を下げる俺達の前には、シータ村にいるほとんど全ての村民達が集まっている。
老若男女を問わず多くの人達が、横一列に並びながら手を合わせていた。
彼らの前に並んでいるのは……十字架を象った二つの墓。
中に入っているのは原型を留めていないほどにボコボコに殴られている、二つの死体である。
「こんなにひどいことになっちまって……」
「見ろよ、シズカさんの顔を。息子を殺されて今にも泣きそうなのに、必死で我慢してる……グレンも親不孝もんだよ、本当に」
その無惨な死体を見て、中には肩を震わせて泣いている人もいる。
どうやらグレン達は村の奴らからも、相当に慕われていたようだ。
そう、俺がシズカさんに頼んだこととは――グレンとナージャの葬式をあげてもらうことだった。
魔王軍は間違いなく、あの白ゴリラの戦果を確認しにこの地の情報を間違いなく集めることになるだろう。
その時にグレン達が死んでいないとなれば、おそらくやつらはこの村全体を人質にしてでもグレンのことを殺そうとするだろう。
死んでもいない息子の葬式を挙げて喪に服してもらうというのは、デリカシーを親の胎内に忘れてきたとよく言われる俺であってもさすがに良心がちくりと疼く。
「これだけたくさんの人達に見送られて……あの子もきっと、喜んでいる……はずです……うっうっ……」
式辞のスピーチを行っている最中、シズカさんはとうとう我慢しきれずに涙を流し始めた。
思わずその涙を拭おうと飛び出しかけた俺よりも先に、なぜかいきなり謎の男が彼女の肩を抱き寄せる。
そこで俺はシズカさんが人妻だったことを思い出す。
「……挨拶は、ここまでにさせてください」
夫の言葉に他の人達も頷き、そのまま棺がゆっくりと土の中へ……ではなく、煙突のあるゴミ処理場へと向かっていく。
今回用意した死体は、行きがけに潰してきた盗賊団の中で背丈が似た二人をボコボコに殴って用意したものだ。
詳しく調べられれば間違いなくバレるので、このグランダット王国では比較的ポピュラーな土葬をするわけにはいかない。
出身地域によっては火葬を選ぶこともあるらしいので、そこまで不自然には思われないだろう。
「グレン……なんで死んじまったんだ! 畜生!」
「マスキュラー……演技下手すぎるからこれ以上喋らない方がいい」
棺桶の近くで地面に拳を叩きつけ形而上の涙を流していた俺に、ミリアから残酷な真実を告げられる。
俺としてはアカデミー賞ものの名演技だと確信していたが、どうやらそう思っていたのは俺だけだったらしい。
大人しくすごすごと下がりながら、俺に触発されたらしく棺桶の近くで語り始めるグレンの友人や知り合い達を見る。
その姿を見てシズカさんは再びこらえきれぬとばかりに涙を流していた……うお、すごいな。
なんという名演技だろうか。
事情を知っていなければ、間違いなくグレンが死んだと思うだろう。
後ろの方にいる、シズカさんに説得されて参列しているナージャの両親達は複雑そうな顔をしているが、それも今回のシリアスな雰囲気に一役買っている。
娘の死に未だ納得がしきれておらず、消化しきれていない両親と乗り越えて気丈に振る舞おうとするが我慢しきれなかったシズカさん……見事な対比の形になって、二人の死をまざまざと感じさせる仕上がりになっている。
これなら後に魔王軍がどれだけ情報収集をしたところで、グレン達が死んだことは間違いないという結論が出るだけだろう。
こうして無事葬式が終わり、俺達はシズカさんとその横についている謎の男と別れを告げることになった。
……はっ、そういえばシズカさんは人妻だった(天丼)。
「それじゃあ……お元気で」
「はい、マスキュラーさんの方もどうか……」
別れ際も、シズカさんはグレンの名を一度も出すことはなかった。
俺がお願いしたことを徹底してくれているのだろう。
この世界には気配を消すことができる魔物や、盗聴器のような魔道具が存在している。
彼らの目を完全に欺くためには、たとえ人が居ない場所であっても真実を話すべきではない。
「いつか……全部が終わったら、また会いにきます。その時は……俺と結婚を前提に、お付き合いして下さい!」
「ふふっ、マスキュラーさんは冗談ばっかり。もう、私は人妻ですよ」
こんなかわいい人妻がいてたまるか!(血涙)
俺は血の涙を流しながらグレン家を後にする。
そのまま全体的にどんよりとした感じのシータ村を脱出し……そして事前に約束していた南の街道で、外套に身を包んでいる二人組と合流した。
「お前達の葬式、無事終わったぞ」
「ん、マスキュラーの珍演技が炸裂した」
「――俺の演技、珍プレイ扱いなの!?」
「……そうですか」
もちろんそこに居たのは、事前に村を出て待ってもらっていたグレン達だ。
とりあえず二人には、しばらくの間は素性を隠して生活してもらう。
姿を変える魔道具もあるから、ひとまず王都に行きがけの道でその辺りも手に入れる必要があるだろう。
「生きてる間に葬式を挙げられるなんて……なんだか不思議な気分だ」
「ね、なんだか自分達がドッペルゲンガーになったみたい」
「ちょっと、怖いこと言わないでくれよ、ナージャ」
少し複雑そうな顔をする二人は、黙って俺達の後をついてくる。
街道を外れた獣道を、身体強化を維持したまま駆けていく。
こうして俺の勇者グレンを見定めつつ行われる聖地巡礼は、まさかの勇者を弟子にして引き連れるという想定もしていなかった最終地点に着地するのであった――。




