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おかわり


 グレンが順調に強くなっていくのを前方師匠面をしながら前のめりに見つめていた俺は、新たな技を習得することに成功した。

 実戦レベルに持って行くまでにはまだまだ時間がかかりそうだが……まさかまだ、先があるとはな。


 こいつがあればあんなことやこんなこともできるようになる。

 うっは、夢が広がリング状態だ。


 どうすべきか考えた結果、グレンの修行は彼が身体強化がレベル4相当、中級魔法がある程度使える程度まで鍛えたところで打ち止めにすることにした。

 ここまで鍛えれば、そんじょそこらの敵に負けることはなくなるだろう。


 正直模擬戦でもまだまだ強くなることはできるが、それだとどうしても頭でっかちになってしまう可能性がある。


 真剣を使い骨が折れたり重傷を負ったりすることはあっても、所詮模擬戦は模擬戦。

 命のやりとりを経ないままに下手に強くなりすぎれば、人間甘えが出てきてしまう。


 グレンは人一倍優しい人間なので、相手より強すぎたりすると多分、本来であればミリアに手を差し向けていた時のように、情けをかけたり更生を促したりする勇者ムーブをかましてしまうだろう。


 泣きっ面に蜂だけでは足りずに拳を付け足す俺や、泣かれても無感情に攻撃を続けるミリアのようなやり方をしなければ、この世界で安全に生きていくのは難しい。


 妙な動きをしている魔王軍にその甘さを衝かれたりしたら、普通にやられてしまう可能性もある。


 まだ子供のままである今のグレンとナージャに必要なのは、実戦経験だ。

 なのでここらで稽古はやめて、後は彼ら自身で鍛えてもらうことにした。


「というわけで、そろそろ出るわ」


「マジかよ……本当に行っちゃうのか?」


「ああ、俺としてもやらなくちゃいけないこともあるしな」


 いつものように鍛錬を終えた夕食の最中、俺はグレンとママに告げておくことにした。

 俺がやらなくちゃいけないことは何もグレン達の見守りだけではない。


 なぜ魔王軍が妙な動きをするようになったのか、その原因を探らなければならないのだ。

 もう一度王都に行って情報屋のテファンに話を聞きつつ、攻略で有用だったアイテムなどが問題なく入手可能かどうかを確かめていくつもりだ。


 げっそりしていたので無理させるまいと一つに絞ってしまったが、こんなことなら骨と皮しかなくなるアンデッドレベルのガリガリになるまで情報をもらい続けるべきだったかもしれない。

 人の心? そんなもの、ないよっ!


「寂しくなりますね……いつまでもいてくれていいんですよ」


「じゃあいつまでも居よっかな!(前言撤回)」


「お前、母さんにだけはいつも態度が違うよな……」


 シズカさんにそう言われては、俺としてもこの場に居続けざるを得ない。

 ゲーム開始までのあと二年弱、シズカママの優しさに包まれながら暮らしているのもやぶさかではない。


「とまあ冗談はグレンの顔だけにして……」


「俺の顔、そんなことになってるのか!?」


 ぺたぺたと自分の顔を触るグレンを見ながら、シズカさんがふふっと笑う。

 その隣にいるグレンの父親(ゴーフルというらしい、おいしそうな名前だ)は、変わらず眉間にシワを寄せながらご飯を食べていた。

 彼は黙々と仕事をするタイプの職人気質な静かな人なので、ついつい存在を忘れそうになってしまう。


 守りたい、この笑顔。

 でもよく考えたらシズカさんは人妻、その笑顔は既にゴーフルに守られている……。

 ――よし、出発進行!(手のひら風力発電)


「俺もそこまで暇じゃないんだよ。まあグレンとナージャが俺についてくる文には構わないんだが……いつまでもここにいるっていうのは、な」


 ちょっとシリアスなふいんき(なぜか変換できない)を醸し出しながら、ニヒルな笑みを浮かべる。

 実際問題グレンを鍛え上げるのと重要アイテムを入手するのは同じくらい大切だ。

 何せ『魔の桎梏』然り『御鏡箱』然り、この世界のアイテム……特に古代文明のアーティファクトと呼ばれているものは、いかんせんその性能が高すぎる。


 相手方に持って行かれる前にこのマスキュラーがちゃっかりがっつり、いただきかしらーしなくてはいけない。


 だが無論、俺としてもグレンのことを放置するつもりはない。

 何せ彼はこの世界の主人公、死んでしまってはこちらが困る。


「こいつを置いていく。何かあったら三時間耐えろ、俺が着くまでな」



 俺が手渡したのは、キラキラと青色に輝く水晶であった。

 こいつは連絡水晶と呼ばれている二個で対になっている魔道具だ。

 魔力を流し込むことで向こう側の水晶を光らせることができるので、非常時の連絡手段として使うことができる。


「これは……」


「まあ腐っても弟子だからな、師匠として何かあったら助けに行く」


「……マスキュラー、自信ありすぎだろ。僕が倒すつもりだけど、何かあったら……その時はお願いします」


 この連絡水晶は使い切りのくせにこれ一つで金貨が五枚は吹っ飛んでいくという代物だが、何せ俺はアリアの家庭教師をしたおかげで金なら……いや、別れ際にルーク達に結構渡したから、今は普通にすかんぴん状態だった。


 連絡水晶ならアリアの分とグレンの分、そして後もう3セットほどあるが、それを除いたらほとんど金目の物もない。


(やらなくちゃいけないことに、金稼ぎも追加されたな……)


 クレインに無心するのもありだが……置いてきた不壊棒、木材にして金に換えるべきだろうか。

 金がなくなると心まで貧しくなりそうで怖い。

 金がなくとも心は錦、そんな武士道スピリッツで生きていきたい所存です。


 まあなんとかなるだろ。こうなったら一挙両得で冒険者登録をして魔物の素材を売りつつ、ダンジョンやイベントでアイテムを探していくのがいいかもしれない。


「そんなこんな高価なものを……ありがとう、マスキュラー」


「いいってことよ、ただ絶対に壊すなよ」


 俺は金貨十五枚したんだぞという意味のない嘘を吐いて自尊心を保ってから、再びシズカさんの飯をおかわりすることにした。


 やることは多い。果たして二年で全部できるだろうか。

 『アンタッチャブル』にも手伝わせるってのもいいかもしれん。


 手が足りねぇな……いっそのことカイリキ○にでも転生したら良かっただろうか。

 いや、腕が六本あるのは日常生活で結構不便か……。


「それじゃあな」


「ありがとうマスキュラー……僕、頑張るよ!」


「おう、頑張れよ。お前はまだまだ強くなる。お前ならきっと……世界だって救えるはずだぜ」


「そんな……大げさだって」


「うん、今のは盛った」


「そういうことは正直に言わないでくれないかな!?」


 俺はいつものような日常を過ごしつつ、グレン達と一緒に最後の日を過ごしたのであった……あ、もう一杯おかわりいいすか?

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