戦闘訓練
「よし、そんじゃあかかってこい」
「オッス、お願いします!」
もはや魔法も普通に使えるようになったグレンに、俺が技術的に教えられることはない。
なのでミリアと同様、俺もグレン相手には実戦形式の模擬戦をメインに行うことにしている。
どんどん強くなっていくから、こっちからしても教え甲斐があって楽しい。
「はああっっ!!」
グレンはまず魔力凝集を使いながら、こちらに駆けてくる。
魔力凝集を行っているのは腹部と足。
移動速度を上げつつ、攻撃時に部位に魔力を回そうという狙いだろう。
攻防のための魔力配分は魔力凝集を使っていく上での要だ。
高出力の身体強化は使う魔力が結構エグいので、基本長時間の戦闘をする上では魔力凝集をいかに挟むかというのが大事になってくる。
瞬間瞬間の出力を考えるなら、身体強化一択なんだけどな。
向こうが魔力凝集だけで来るなら、俺は更にその上を行く。
魔力をまったく使わず、素の身体能力だけで捌いてやるさ!
「おおっ!!」
放たれる右からの斬撃を、目で見た瞬間に身体を動かすことで回避する。
普段と比べれば動きは格段に早くはなってるが、魔力凝集や身体強化による補正はあくまでも素の肉体に対する乗算で決定される。
まだ身体が出来上がっていないグレンでは、強くなると言ってもせいぜい数倍早くなる程度。
常にギリギリまで身体をいじめ抜いている俺の素の身体能力でも十分相手ができる。
「おらっ!」
カウンターで放たれた右ストレートがグレンの顎を打ち抜いた。
だが防御の瞬間、グレンは即座に顎へ魔力を集めて咄嗟に防御態勢を整えてみせた。
おそろしく早い魔力移動……俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。
そのままワンツーで左のフリッカーで再び顎を打ち抜く。
するとさすがに魔力凝集だけでもカバーしきれなかったらしく魔力が霧散し、グレンがぐるりと白目を剥いて倒れた。
今後の課題は、魔力凝集で集める魔力量をもっと増やせるようにすることだな。
「よっこら、せっと!」
近くにあった桶を手に取り、中に入っている水をグレンにぶっかける。
「わっぷ!? ……っと、すみません!」
冷水を顔に浴びたグレンが意識を取り戻し、再び立ち上がる。
魔力凝集での腕試しが終わったら次の段階だ。
「身体強化っ!」
グレンが身体強化を発動させ、その全身を彼の赤い魔力が覆っていく。
出力が安定していないからか不定形でぐねぐねと動いているのは要改善だな。
あれだと無駄に魔力を浪費することになる。
「ききますっ!」
グレンは声かけと共に、こちらに迫ってくる。
その速度は先ほどまでとは比べものにならないほどに早い。
さすがにこれは何もせずに受けるわけにもいかないので、俺の方も魔力凝集を使って対応させてもらう。
「――せいっ!」
グレンが現在使える身体強化はレベル3程。
身体強化は肉体のスペック全てが向上するため、攻撃の速度だけではなく反応や反射の速度、動体視力まで全てが向上している。
相手の動きをよく見ながら対応するために魔力凝集は目と腕、そして足へと集中させてもらう。
グレンの攻撃をいなしていく。
素早い斬り上げはおっと思わず声が出るほどにいい斬撃だった。
まあ食らうと相手の武器の方が折れちゃうので避けるけども。
「まだまだあっ!!」
全身から溢れる赤色のオーラが更に強まった。
身体強化の上に魔力凝集を重ね掛けしたのだ。レベル3であれば、普通に併用は可能だからな。
「ちなみにレベル6以降になると反発するからその反動を利用して空を走ったり、反動を全部攻撃力に変換して超火力のパンチが打てたりして楽しいぞ」
「ごふっ……」
あちらが身体強化を使っているのであれば、多少強めに叩いてもすぐに気を失ったりすることはない。
俺はこちら目掛けて攻撃を繰り返すグレンの隙をぬいながら、ガンガン攻撃を加えていった。
攻撃を食らった箇所が赤く腫れ、右目の上にできたコブでまともに視界が見えないほどに膨れ上がる。
「まだ……まだまだああああっ!!」
「ははっ、いいね」
最初の頃はすぐにぶっ倒れたりギブアップしていたグレンだが、何度も稽古を重ねていくうちに明らかにタフになり、やる気も上昇している。
特にミリアと仲良くなってからは、こちらがもうやめた方がいいんじゃねと思うレベルまでボロボロになっても戦おうとしてくるレベルだ。
なぜそこまで急にモチベーションが上がったのかは不明だが……強くなりたいと思う男の気持ちに応えないのは、男じゃねぇ。
「というわけで……ぶっとべやっ!」
「ごが……っ!?」
魔力を足と拳に集中させ、気合いを入れた一撃を放つ。
いいのをもらったグレンが砲丸投げのように放物線を描きながら飛んでいき……広場の外れに、ぐしゃりと落ちる。
おそろしいことに、立ち上がれないほどにダメージを受けているはずのグレンは、それでも立ち上がろうと力を込めて砂を握っていた。
「良くやった、今日はここまでだ……おいナージャ、グレンを治してやってくれ!」
「は、はいっ!!」
傷だらけになったグレンを、ナージャが覚えたての回復魔法でいやしていく。
彼女が使えるのは光魔法の回復なので、回復量が多い。
まだ練度に難があるので時間はかかるが、彼女はそれでもゆっくりと着実にグレンのことを傷を治していく。
俺は彼らにそっと背を向けて、自宅に帰ることにした。
「ありがとう、ナージャ……」
「もう、無理しすぎだよ、グレン……」
治療が終わると、二人はいっつもなんかいい感じになる。
そこを出歯亀するほどに無粋じゃないので、お邪魔虫はそそくさと退散だ。
俺がボコボコにしちゃっているせいで、ひょっとするとグレンはナージャルートに進んじゃうかもしれないが……うん、その時はその時だな。
俺はシズカママのご飯を楽しみに、家に帰ることにしよう。
ママァ!




