ご飯
「だ、誰だッ!?」
「俺だよ俺……マスキュラーだよっ!」
「そうか、マスキュラーか……って、誰だよ!?」
俺が隠れていた藁束からぬっと顔を出すと、ものすごい警戒した様子でグレンがこちらを見上げてくる。
よく見ると頬がちょっと赤い。……いや、これ警戒してるっていうか、かっこつけた台詞を聞かれて恥ずかしがってるだけっぽいな。
(しっかし……当たり前だけど、本物のグレンだな……)
短く切り揃えられた赤い髪に、メラメラと燃える炎のような意志の強さを感じさせる赤の瞳。
母譲りの甘いマスクに、未成年ながらもシュッとしている身体つき。
前世で俺が操っていたゲームの主人公であるグレンそのものが、俺の目の前に立っていた。
「うーん……なんか、もっとこう、実際会ってみたら思うところもあるかと思ったんだが……」
なんで主人公のポジションをが俺じゃないんだよとか、今すぐその場所俺に変わってくれとか、お前ばっかり優遇されてズルいとか。
会ったら色々と言いたいことも出てくるかと思ったんだが……特にないな。
大好きだったゲームの主人公とヒロインと会えて結構心は躍っているが、負の感情はまったく湧いてはこない。
俺は俺で結構この世界を楽しんでるし、そもそも世界の命運をかけた戦いとか、普通に考えてちょっと重いし。
むしろ勇者になってくれてありがとうまであるかもしれない。
「ナ、ナージャに手は出させないぞッ!」
「いや、俺ロリコンじゃないから」
「――やっぱりバインバインだ! マスキュラーはシズカさんみたいな人が好きなんだ!」
「シズカだって!? お前、まさか母さんに……っ!」
「ミリア、話をこれ以上ややこしくしないでくれ……」
ゲーム開始地点まではおよそあと二年ほど。
その時点で成人である十五歳になると考えると……今は十三、四歳くらいか。
身体が出来上がっている感じはしないし、こちらを警戒して戦闘モードに入ってるのに身体から魔力が出ていない。
魔法はおろか魔力操作にも至ってないだろうな。
これじゃあゴブリンにだって殺されかねない。
……危ういな、実に危うい。
グレンはいわば、野ざらしになった核弾頭だ。
スイッチポチーで世界が滅ぶんだし、この世界の住民はもうちょっと危機意識持った方がいい(唐突な上から目線)。
「いやまあ、俺はどこにでもいる普通のマスキュラーなわけだが……」
「そんな変な名前のやつがどこにでもいるわけないだろ?」
変な名前かなぁ?
……変な名前だなぁ(自己完結)。
たしかに他に聞いたことねぇわ、俺の名前。
ええい、とにかく賽は投げられたのだ。
後はノリと勢いで乗り切るしかあるまいて!
「そんなことはどうでもいい! グレンよ、話は聞かせてもらった!」
「き、聞かないでくれ!」
「もう聞いたから無理な相談だ! グレン、お前は彼女をナージャのことを守りたいんだろう?」
「そ……そうだ!」
明らかに自分よりもガタイがいい俺の方を見ながら、グレンはキッと毅然とした顔でこちらを見上げてくる。
おそらく俺の魔力は、未だ魔力操作に目覚めていない今であっても感じ取ることができているはずだ。
にもかかわらず負けじとこちらを睨み付けてくるその負けん気は、なるほどこいつが主人公なのだと唸らざるを得ない。
認めようグレン……お前がナンバーワンだ。
「それなら強くなるしかない。そして俺なら、お前を強くしてやれる」
「……本当に?」
今までの会話で信頼できる要素が何一つないので当然だが、グレンはめちゃくちゃ訝しがっていた。
というかナージャもグレンの後ろに引っ込んで、顔だけをひょっこりとこちらに出している。
ヒロインに怖がられるのは普通に効くのでやめてほしい。
「その証拠を見せよう……ふんっ!」
俺は近くにあった、手頃なサイズの岩を魔力凝集を使いながらぶっ叩いた。
ぶん殴った岩が拳型に凹み、バキバキと音を立てながら砕け散る。
魔力凝集の練度も更に上がってるな、うん。自分の成長を実感する。
「どうだ?」
俺を見たグレンとナージャは、口をあんぐりと開いていた。
どうやら俺の圧倒的なパワーの前に、言葉も出ないらしい。
「お前に稽古を付けてやる。……何、お前なら俺より強くなれるさ」
「いや、そこまで強くなれる気がしないんですが……」
俺は万感の思いを込めてグレンに告げたはずなんだが、どうやら俺の金言をまったく信じた様子もなく、グレンは相変わらずこちらを訝っていた。
あれれぇ? おっかしいぞ~?
「ま、まずは魔力操作と魔力凝集からだな! それができれば少なくとも、そこらの魔物を一ひねりにできるくらいには強くなれるぜ!」
「そ、そうですか……」
「あ、別に敬語とかはいいぜ。別に育ちがいいわけじゃないし、そういうのは気にしない」
「わかりまし……わかったよ、マスキュラー」
「ねぇグレン、この人悪い人じゃなさそうだし……せっかくなら教わってみたら?」
「いやわかる、たしかに悪い人ではなさそうだけど……この人に教わっても大丈夫なのかなという気持ちが、こうふつふつと……」
なんだかいまいち、こう乗り気ではないようだった。
それなら日を改めるべきだろうか。
「よし、それなら一旦帰るか」
「ああ……って、なんで僕と同じ方角なんだ?」
「せっかくなんだから飯食わせてもらおうかなと思って」
「……僕は果たして、この人についていっていいんだろうか……」
「……」
俺の後ろにいたミリアは、グレン達のことをジッと見つめたまま、ずっと黙っていた。
たしかによくよく考えてみれば、彼女はサブヒロイン。
グレンのことを一目見て何か思うところがあったのかもしれない。
どうやらグレンはまだ俺のことをそこまで信頼できてないようだが……なあに安心しろ、しっかり強くしてやるさ。
もし魔王軍のやつらがやってきても、返り討ちにしてやれるくらいにな。
だからその報酬として……遠慮なくシズカさんの飯を食わせてもらうぜ!




