表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
251/259

しっちゃかめっちゃか

 明治大正の街角を映した写真に出てくるツインのボックスだった。

 手旗で交通整理する巡査のための休憩用だから、二人一組(ふたりひとくみ)左右対称(さゆうたいしょう)の仕様らしい。一見(いっけん)すると一昔(ひとむかし)前の公衆電話ボックスと同じで、下半分は隠しているが上半分は中に人が入っているか入っていないかを識別できるよう、少しアールがかったガラス板を四面に張っている。

 ガラス板は西洋開花(せいようかいか)の象徴だから、こんな処でもアールがかったエレガントさは欠かせない。その上お上(おかみ)からの支給である。下級役人の矜持(きょうじ)にも響いていく。

 休憩用にともう一つ支給された椅子に座ってばかりでは、サボっていると街角を通るひとの謦咳に触れる(けいがいにふれる)。いまと違って、上下白服(じょうげしろふく)公僕(こうぼく)がまさか半畳の床板に寝転がる不様(ぶざま)の心配はいらないから、全面ガラス張りのスケルトンまでしなくても電話ボックスの仕様に安全を損なう点は見当たらない。

 監視はこの程度のエレガントさで十分だった。


 それが、

 明治大正が終わると、不埒な輩(ふらちなやから)蔓延り(はびこり)始める。(たむろ)し始める。外に出た巡査が一生懸命に手旗で交通整理している隙にゴミを投げ入れる。

 世界中に感冒(かんぼう)のつまった鼻水タップリのチリ紙や、嚙み進めたチューインガムをダンゴになるまで貯めて丸めて食み出たギン紙(はみでたぎんがみ)なら、二人いる巡査の後輩がホウキチリトリ使い搔き集め(かきあつめ)れば済むことだが、その辺りでやらかしたゲーゲーや糞尿の類(ふんにょうのたぐい)から、妖し物(あやかし)・・・・・の、片腕の・・・・、(もののけ)・・・の、おさげ髪の・・・・、折り曲げ固め(おりまげかため)油を吸わせ(あぶらをすわせ)燃やしたあと(もやしたあと)水をかけ(みずをかけ)半分黒焦げで(はんぶんころこげで)残った半紙の束(のこったはんしのたば)・・・・・・の・・・・・と、クソミソあらんかぎりの類まで投げ入れられては、もうたまらない。


 臭くて、たまらない

 汚くて、たまらない

 不衛生で、たまらない

 気持ち悪く、おどろおどろく、どうにもこうにもたまらない


 昭和が始まると、当番で街角にやって来た巡査たちは、もうそんな処は休憩に使わない。お上の支給だろうと、西洋開花なんて古臭いものは昔ごと他人ごと(むかしごとたにんごと)だ。

 寒ければ2時間、暑ければ3時間、どこか別の居心地のいい所を見つけ、上下白服なんて目立つような公僕を脱いで休憩を入れるから、人も車も、それらが運ぶはずの用事も難事も(ようじもなんじも)しっちゃかめっちゃかになって、街角から街は消え、ただの角地に変貌する。

 街ではなくなった角地に胡乱な輩(うろんなやから)はいないから、あとは臭くて、汚くて、不衛生で、気持ち悪くおどろおどろしくどうにもこうにもたまらない公衆便所に成り下がったボックスが二つ残るだけ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ