九月十八日 (水)
夏休みが過ぎても、交換ノート部の熱は冷めず、むしろより熱くなっていっているようにさえ感じられた。
「何度も言うけどさ、和美。お前の図、曲がってるって」
「ごめん。頑張ってはみてるんだけど……」
「定規が小さすぎるんだよ。もっと大きいの使ったら良いと思うけど」
部内での啓発というか、全体のレベルを押し上げるような助言や提案を全員が出せる交換ノート部は、とにかく良い雰囲気だ。いがみ合ったりする事もなく、皆がただ良いノート作りへの情熱を持っている。皆が自己流を貫きながらも、他を取り入れて進化を目指す、そんな姿勢である。
また、それに従って、交換ノート部の成績も上向きを示すようになった。特に顕著な伸びを見せたのは和美で、元々最下位タイだった所から、夏休み明け最初のテストでは祐に並ぶトップタイまでにその順位を上げた。一方、最下位タイのもう一角だった大樹は、同様に伸びはしたものの小振りで、今でも最下位街道を独走していた。
「……良い感じだな」
「お、祐もそう思うんか。一緒やな」
昼休み、ノート交換と昼食を終えた隆志は、祐と二人で南館の廊下を歩きながら、最近の交換ノート部について話をしていた。
「ああ。皆やる気もあるし、成績も上がってきてるしな」
「そやな。ほんまありがたい事や。近藤先生に感謝せなな」
近藤先生は、今でも週に二回ぐらいの頻度で昼休みの活動に顔を出している。だが、五人が交換ノート部としての決まりや自覚、技術を身に付けてきた今では、ノートについて口を挟む事はほとんどなくなり、ちょっとした相談事を聞いたり世間話をしたりする役に徹していた。
「ああ。ま、まだまだたけどな」
「ほんまその通りやわ。しっかりやらんとな」
部長と副部長。それが祐と隆志の今の関係だ。だがそれだけではなく、二人は徐々にお互いを親友として意識するようになりつつあった。右端と左端で分かれる二人だが、話は部内のどの組み合わせよりも合っていたのである。
「じゃあ、俺はここだし」
「また明日。ほなな」
祐の教室の前で別れる。祐の後姿を見送ってから自分の教室へ戻ろうとした隆志は、その背中をとんとん、と叩かれて振り返った。
「あ、あのっ」
そこには、何となく顔を赤らめた美樹の姿があった。
美樹の話は単純だった。明日、祐に告白したいから、祐と一緒に教室へ戻るのを控えて欲しい、と言うのである。
「ええで」
何の差し支えもないので、隆志はそう答えた。
「あ……ありがとう~」
「いや、頑張りや」
「うんっ」
これまで見てきた限りでは積極的なタイプではないのだが、よく決心したものだ。そう思って隆志は、大いに激励してやった。美樹は最初は不安な顔をしていたが、その内に徐々に明るさを取り戻し、美樹の教室に着いた頃にはすっかりご機嫌になっていた。
手を振って別れる。明日は花が咲くかどうか、そんな日になると、隆志は思った。




