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二月三十日の待ち合わせ  作者: さらさら
二.隆志の告白
15/19

九月十九日 (木)

 ぎこちない動きでノートの交換をし、いまいち躍らない胸へご飯を流し込む。今日、隆志は当事者である美樹よりも余計に緊張していた。

 もし、祐が美樹の申し出を断ったら、交換ノート部はどうなってしまうのだろう。昨日は何の問題もないと思っていた事が、大いに問題をはらんでいるように思えてきて、隆志の心は急いていた。

「何となく、動きに余裕がないわね。どうかしたの?」

 鋭い近藤先生が、目ざとくそれを見抜いてくる。

「いや、何でもないんや」

「そうかしら。あんまり無理をしないようにね」

「そうだぞ。俺の愛しい妹に、余計な心配かけんな!」

「お、お兄ちゃん! 要らない事、言わないでよ!」

 ああ、心地良い。こんな空間が壊れる事に、隆志は恐怖を感じた。

「本当に大丈夫か?」

「ほんまにほんまや。……でもそやな、今日は早めに教室戻っとくわ」

 祐の心配する言葉に、隆志はそう頷いた。まだいつもの時間まではかなりの余裕がある。だが、早めに出ておくに越した事はなかった。

「ほな、また明日や。さいなら」

 机の横にかけたかばんを手に取ると、隆志はそう言って立ち上がり、出口へと早足で歩いた。そしてそのまま力を込めて扉を開くと、振り返りもせず、扉を開けっ放しにして出ていった。




 渡り廊下を東館へと抜けた頃、隆志はまた昨日のように背中を突かれて、振り返った。

「……ん、どうしたんや」

 その姿はだが、昨日とは少し違っていた。変わらない涼やかな目が、隆志の全身を突き刺している。

「話があるんだ」

「どんな話や?」

「とっても大事な話だよ。私にとっては」

 そこに立っていたのは、和美だった。和美が、いつにも増して強い目で、隆志を見上げていた。隆志はそれを、ただただ見つめ返した。

「好きです。付き合って下さい」

 次に和美の口からこぼれたのは、彼女には似合わない、陳腐なありふれた言葉だった。

「え?」

 思わず、心なく訊き返してしまう。

「好きだから、付き合って下さい」

 和美は、言葉を繰り返した。しばし見つめあう。隆志の脳は、この時に限って完全に休止してしまったかのように、何の冴えも見せなくなった。ただ一つ、隆志の頭に残っていたのは、交換ノート部の事だった。

 頭が上下に振れ、次に和美の顔を見た時、和美の表情は満面の笑みに変わっていた。窓の外では、この時期にしては珍しい強い風で、中庭に設けられた松の木と杉の木の枝同士が互いに絡まりあって、離れまいとしている。

 こうしてこの日、交換ノート部は二組のカップルを生み出した。


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