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二月三十日の待ち合わせ  作者: さらさら
二.隆志の告白
13/19

六月十日 (月)

 隆志は大きく伸びをした。

「はーっ。中間テスト、あんまりやったなぁ」

 一昨々日に終わったばかりのテストの結果が、土日を挟んだ今日になって続々と返ってきていた。だが、隆志の得点はあまり芳しくなく、日頃からの努力があまり報われていないような気を隆志は感じていた。

「馬鹿め。……はっ。このままだと俺の賢く可愛い妹に馬鹿がうつるだろ! 馬鹿は近付くな!」

「お兄ちゃん。今の所私は隆志に全教科負けてる」

「なにいっ!」

 隆志は部内三位の成績である。トップが美樹で二位が祐、仲良し兄妹は仲良さそのままに同程度で最下位だ。滑り込んで入学した自分が三位である辺り、交換ノート部の学力レベルはそう高くはないようだと隆志は思った。その証拠に、トップの美樹ですら平均点を超えるのがやっとだった。

「ノートが綺麗過ぎて、どこを覚えたら良いのか分からなくなる……」

「おい隆志。てめぇよくも俺の可愛い妹を落ち込ませてくれたな」

「やったん自分やで」

「ん~。要点に印を付けてみたらどうかな?」

 美樹が、うつむく和美に笑顔でそう言う。美樹と和美は、部内で二人の女子生徒同士何かが通じ合ったらしく、とても良好な関係を築いていた。

「おっ。なるほどっ。じゃあ、忘れ易い所に、『忘れ易いので要注意』って書いてみる」

「さすが我が妹、独力でそこまで至るとは、お兄ちゃん嬉しいぞ!」

「うんっ。私も、そうしてみるよ~」

「おい。愛しき妹のアイデアを盗むなっ」

「お前はちょっと黙ってろ」

 この二ヶ月ほどで突っ込み役が完全に定着してしまった祐が、冗談だとすぐに分かるような声色で言う。大樹はそれを聞いて、どこから取り出したのか分からないペケマークの書かれたマスクを装着した。

「どうだ。似合うだろ」

「喋るのかよ。……まあ良いや。早く昼食にしようぜ」

「了解や」

 今日は授業の全てがテスト返しで埋め尽くされている為に、ノートの交換はない。つまり、五人はただテストの報告と昼食の為に交換ノート部部室に集まっていた。この結束感が、隆志にはたまらなく嬉しい。交換ノート部に入る事ができたのは、たまたま近藤先生の目に留まっただけの偶然でしかなかったが、隆志はそれを奇跡と言い換える事にしていた。

 かばんからそれぞれ弁当を取り出す。美樹だけはいつものようにコンビニパンを出していたが、これまたいつものように和美に弁当を分けて貰う事に決まったらしく、いつも通り美樹が大いに感謝していた。

 この光景が、ずっと続いてきていた。マスクを着けたまま食べようとしてぼろぼろとおかずを落とす大樹を眺めながら、隆志は自分の小さなお弁当を食べた。

 食べる間も、言葉数は決して減らない。とても楽しい昼食だ。

「んむぐ……。ごちそうさまでした」

 数十分ほどして和美がそう言ったのが、最後の完食の合図だった。

「時間がないな」

「そろそろ出ましょう~」

 時計は一時ちょうどを指していた。五時間目の授業の開始まで、あと五分しかない。

「そしたら、お先な」

 教室の遠い隆志は、一番にかばんを掴む。

「お前、俺の可愛い妹より先に行くってのはおかしいんじゃねぇか?」

「いつもそうしてるつもりなんやけど」

「俺もいつも言ってる気がしてる。だがな、俺の妹への愛情は……」

 ぼかっ、と恐ろしい音を立てて、和美のかばんが大樹の頭を捉えた。今日もいつも通り仲の良い兄妹だと思いながら、隆志はほな、と一言全員に掛けてから、重い戸を開けて廊下へと飛び出した。

 すぐに、埃の匂いが隆志の鼻を突いた。心地良い。隆志はそう感じるようになっていた。雨でじとじとしている南館の方が、外から密閉されている東館よりも居心地が良いというのは変な感じもしたが、隆志はとにかく笑顔だった。




 放課後、隆志は近藤先生に呼び出されて職員室へと出向いた。中学校の頃はよくお世話になった物だが、高校生になってからはまだ三度目である。半月ぶりの職員室の雰囲気に少し気圧されながら、隆志は近藤先生の席の横へと立った。

「話と言うのは、他でもないの」

 近藤先生は、自分だけに注いだ温かそうなお茶を啜ってから、そう話し始めた。

「部長をね。決め損なってたでしょう? 夏休み前になったら、休日活動届に部長さんの名前が要るから、決めておかないといけないの」

「交換ノート部は活動せえへんやろ?」

「活動の有無に関わらず、よ。もう分かったと思うけど、明日からあなたが部長よ。おめでとう」

 隆志が反意を示す間もなく、近藤先生は隆志の指を掴むと、無理矢理に朱肉へと押し付け、離し、何かの紙にまた押し付けた。

「よし。帰りなさい」

「……強制された気がするんやけど」

「気のせいに決まってるわ」

 背中を押されて、隆志は仕方なく職員室を一人出る。後ろから、副部長を決めておくようにとの近藤先生の声が聞こえた。

 部長。何だかくすぐったく、隆志には思えた。そして副部長を誰にしようかと、頭を巡らせた。

 成績から行けば、美樹が最適である。積極的な方ではないが人懐こく、人に嫌われない魅力を持っている。だが、どことなく頼りない。

 ノートの見やすさで言えば、大樹に軍配が上がる。図も丁寧だし、字も恐ろしく整っている。ただし大樹は重度の変わり者である。

 その妹和美はどうかと言うと、外見も内面も非常に可愛らしい。ノートも努力してまとめたのだろう跡が見てとれて好感が持てる。問題は不器用で会話らしい会話があまり出来ない所だ。仕事はそう多くないだろうと思われるが、副部長には向かない。

 すると、彼しか居ないか。隆志は、副部長に指名する人物を一人に絞った。

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