やりすぎ注意
本日3話目
ピゴニャータを狩り始めて1月ほどが経過した。
最初に感じていた体の軽さはさらに強く感じるようになっていた。しかし、何かスキルを得たというわけでもなければ、レベルが上がったわけでもない。
俺の中ではピゴニャータの動きに慣れてその結果、自分の動きが早くなっているように錯覚しているだけの可能性が浮上している。
「筋肉がついて、動くのに慣れたってのが一番ありえそうかな」
レベルが上がらなくても身体能力は上がるし、これまで以上に動いているから体そのものが強くなっているだけだろう。
そんな風に考えいつものようにギルドの休憩スペースに置かれているベッドから起きると、ここ1月の間でルーティン化した朝の支度を終わらせギルドの受付へ向かった。
ギルドのほぼ日課と化したピゴニャータの討伐依頼を受けるため、依頼が貼られている依頼掲示板に目を通す。
ほぼ恒常化しているピゴニャータの討伐依頼なので別に確認する必要はないと思うが、稀に受け付けていない時があるため、毎日掲示板を見てから受付に討伐依頼の申請をしている。
「今日はないのか?」
掲示板を見ればいつもあるはずのピゴニャータ討伐依頼の張り紙がないことに気づく。隅々まで確認してみたが別の場所に移されたわけではなく、今日受け付けている依頼の中にピゴニャータの討伐依頼はないということのようだ。
ざっと他の依頼を見てみたが今の俺の採掘者ランクでは受けることが出来ないものしかなかった。
「どうしよう」
一応今日一日休んだとしてもどうにか生活するだけのお金は所持している。しかし、もう一日連続して依頼を受けることが出来ないとなるとなかなか厳しくなって来る。
ピゴニャータは討伐しても大したお金にならない。たまに出てくるお手伝い系の依頼を受けてその稼ぎを合わせて、1月かけてようやく数日分の余裕ができる程度でしかない。
できれば報酬が安かったとしても何か依頼を受けることが出来ればいいんだが、この掲示板に俺が受けられるものが存在しない以上、現状どうすることもできない。
たまに後から依頼が追加されることがあるので、それが張り出されるのを待って、それが受けられる依頼であれば受けるくらいしかないだろう。
ランク2以上の採掘者であれば、討伐対象の動物や魔物を倒してそれをギルドに持ち込めばお金になるのだが、残念ながら俺はまだランク1の採掘者でしかない。
今の俺がそれをやったら最悪採掘者の資格をはく奪されかねない。
まあ、そもそも今の俺の実力でお金になるような野生動物や魔物を倒せるかと言えばかなり難しいので、どのみち現実的とは言えないのだが。
「どうした坊主、そこにずっといると他の奴の邪魔になるぞ」
依頼掲示板の前でどうしようか悩んでいると、後ろから声を掛けられた。
「あ、ごめんなさい」
「別に叱ったわけじゃねえよ。坊主の背丈なら大して邪魔にはならないからな」
後ろから声を掛けて来たガタイの良いスキンヘッドの男性に頭を下げて依頼掲示板の前から横に退く。
依頼掲示板がある位置は俺の頭位の高さだ。ギルドを利用している大人の採掘者たちからすれば、掲示板に貼られている依頼票を見るだけなら俺の存在は若干邪魔になっているくらいだろう。
とはいえ邪魔になっていることは間違いない。
「ロッソさんは今日、早いんですね」
「受けていた依頼が長引いちまってな。こんな時間になっただけだ」
今俺がロッソさんと呼んだ、一部が金属になっているがっしりした防具を身にまとっているスキンヘッドの男性は、このギルドを利用している採掘者の中でもベテランで数少ないランク4の実力者だ。
そしてガンズさんたちと同じように俺のことを気にかけてくれる優しい人でもある。
「なるほど。面倒な相手だったんですか?」
「いや、単純に距離が遠かった」
「ああ、そういう」
いくら実力があっても依頼場所までの距離はどうすることもできない。
当然実力のある人の中には移動が速い人もいるが、ロッソさんは装備している防具の見た目通りどっしり構える重戦士タイプの人なので、移動が速いわけではない。
それと普通の採掘者であれば避けたい依頼場所が遠いものだが、ランク4の採掘者にもなると断りにくい直接依頼が来るようになるのだ。その分報酬はよい場合が多いのだが、こういった依頼を受けるのが面倒だという理由でランク4以上になりたがらない採掘者も結構いるらしい。
「それで坊主がここで突っ立ってた理由はなんだ?」
「いつも受けていた討伐依頼が今日はないみたいで、どうしようかなと考えていた感じです」
「ピゴニャータか。そういえば最近は坊主が毎日討伐しているからこの辺だと数自体が減っているとは聞いたな」
「え?」
ピゴニャータは繁殖力が強いモンスターではあるが、毎日のように狩り続けていれば増えるよりも減る速度の方が早くなってしまうのかもしれない。
これは盲点だった。
というかよくよく思い返せば最近、ピゴニャータを見つけるのに時間がかかるようになっていた。ちょっとでもそこに疑問を抱いていれば依頼を受ける間隔をずらすこともできたのに。
いや、依頼主からすればこの状態はよいことであることは間違いない。とはいえピゴニャータの討伐依頼が主な収入源である俺からすれば死活問題ではある。
「まあ、放っておけばまた数が増えるだろうが、しばらくは依頼として上がってこない可能性はあるな」
「うわー」
どうしたものか。1日2日ならどうにか凌げると考えていたんだが、そう言った理由であれば、しばらくお金が稼げないという最悪の状況も考えないといけないかもしれない。
たまに貼られるお手伝い系の依頼もあるにはあるが、依頼達成料も少なく常にあるものでもない。
本当にどん詰まりする可能性が出て来た。
「ああそうか。そういや、坊主はまだランク2になっていなかったな」
おそらく俺の反応と掲示板に貼られた依頼を確認したロッソさんは、俺が受けられる依頼がないことに気づいたらしく、俺がこの場に立ち尽くしている理由を察してくれたようだ。
「もしかして金がねぇのか?」
「1日2日ならどうにか過ごせるんですが、それ以上となるとちょっとってくらいです」
「なーるほどな。まあ、なり立てじゃあそんなもんだよな」
そう言うとロッソさんは顎に手を当て、何か考え込むような仕草をしてすぐに何か思いついたのか「ああ」と声を漏らして、俺へ視線を移した。
明日の更新からしばらくの間1日2話更新になります。




