引き継がれる想い
ロッソさんは「ちょっとついてこい」と俺に言うと、そのままギルドの窓口へ向かって行った。
俺はよくわからないまま、その指示に従ってロッソさんの後を付いて行く。
ギルドの窓口の前には何人か利用者が並んでおり、ロッソさんはその最後尾に並んだ。
「俺が帰ってくる途中、街道の横にファーラットが巣をつくっているところがあってな。まだ被害が出るような規模ではなかったが、そこの討伐でもしてみるか?」
「ファーラットですか」
ファーラットは名前の通り、全身が長い体毛に覆われたネズミ型のモンスターだ。
あまり攻撃的なモンスターではなく一部では家畜化され、その毛皮が取引されることもある存在だが、残念ながら野生のファーラットの毛皮は汚れなどで使えないことが多いため素材としての価値はほとんどない。
そのため、野生でファーラットを見かけたとしても狩られることはなく、どこかの農地で被害が出てから討伐されることが多い。
「サイズもそこまで大きくはない。ピゴニャータほど弱くはないが、倒せない相手でもないだろう?」
「そうですけど」
問題があるとしたらファーラットの巣は地下にあるという点だ。
そこまで深い巣は作らないらしいが、今武器として使っている枝では到底地面に穴を掘るということはできない。どうにか手で掘るという方法もなくはないがどれだけ時間がかかるか。
ロッソさんと話をしているうちに順番が回って来たようで、ロッソさんは空いた受付の前に移動した。
「ロッソさんですか、あれ、先ほど依頼達成の報告をされたと記憶していますが、もしかして何か報告忘れでもあったのですか?」
「いや、そっちは問題ない」
状況がいまいち呑み込めていないが、とりあえずロッソさんと受付に立っていたニアさんとのやり取りを聞く。
「依頼を一つ出したい。問題ないか?」
「え、問題はありませんけれど……、なるほど。どのような依頼内容でしょうか」
ロッソさんの言葉にニアさんは首を傾げつつ、側にいた俺のことを一瞬見ると何かを察したのか、そのまま依頼作成の作業に移った。
「ここから南の街道沿いにファーラットの巣が新しく作られていた。場所はこの辺だな」
受付に備え付けられている周辺地図を使い、ロッソさんがファーラットの巣があった場所をニアさんに伝える。
「街道沿いであればそこまで問題はありませんが、農地が遠いわけでもないですね」
「そうだ。まだ被害が出るような規模ではないだろうが、被害が出る前に対処したほうがいいだろう」
「そうですね。それでは依頼達成料はどういたしますか?」
「まあ、掘り出し用のシャベル支給でこんなもんだな。それと個別の討伐報酬はこんなもんで」
「道具の支給ありでしたら、問題ない範囲ですね。期日はどうしましょうか」
「ま、今日から10日ってところだな。規模を考えればどんなに遅くてもこれ以上は掛からんだろう」
「了解しました。これで依頼票を作りますね」
「頼む」
ポンポンと話が進んで行くのを眺めていたが、受付前に聞いた討伐するかという話と今シャベルの支給という言葉が出て来たことで、ファーラットの討伐を依頼という形にして、俺がファーラットの討伐を出来るようにしてくれていることに気づいた。
「ロッソさん」
ニアさんが依頼票を作り始めたところで俺はロッソさんに声を掛けた。
「とまあ、作り立てのファーラットの巣なら坊主1人でもどうにかできるだろ。掘るための道具はないだろうからこちら持ちだ。その分依頼料は低くなるが」
これは非常にありがたいことだ。ファーラットなら村にいる時に何度か倒したことのあるモンスターだ。対処はできる。
それに一番の問題点だった道具の購入も支給してくれるなら問題はなくなる。
居るとわかっていても、倒せるとわかっていても依頼が無ければ今の俺ではそれをお金に換えることはできない。
しかも、まだ被害が出ていない状態で依頼になることなんて普通はないし、それを依頼にするのだってただで出来ることでもない。依頼達成料だってロッソさん持ちなのだから。
「ありがとうございます」
「安易に金をやることはできるが、それをやると坊主のためにもならんし、こうすれば経験も積める。そんで俺は街道でうろつくファーラットを気にする必要もなくなる。持ちつ持たれつ、だわな」
持ちつ持たれつなんて状態じゃない。ファーラット程度、ロッソさんならすぐにどうにかできるのだ。これは一方的に俺がロッソさんの世話になっているだけだ。
「ああ、何だ。変に恩を感じなくてもいい。こういうのはな、昔から割とあることなんだ」
「そう……なんですか?」
「新人がわっときた時なんか結構起こるもんなんだよ。新人の何人かが受けられる依頼が無くなるっていうのはな。だから、こういう時は古参がそれっぽい依頼を出してそいつらに小遣いをやるっつぅ、昔からある習わしがあるんだ」
なるほど。俺はそういう状況ってわけじゃないけど、確かにランク1が受けられる依頼は少ない。そこに複数の新人が来たら依頼を受けられない人も出て来るよな。
先輩たちに混ざって一緒に依頼を受けるみたいなこともあるだろうけど、このギルドを利用している採掘者たちはほとんど固定された人達で行動しているから、なかなかその中に混ざるというのは難しい。
それに俺みたいなろくに戦えないような採掘者を連れて行くのも躊躇うだろうしなぁ。俺も足手まといにはなりたくないし、誘われたとしても断ると思う。
「俺もなり立ての時は新人も多く、受けられる依頼は奪い合っていたくらいだからな。よく上の奴らの荷物持ちをしていた。今じゃこのギルドに居る奴が少なくなって同じ状況になることも少なくなったが、懐かしいもんだ」
昔の光景を思い返しているのか、ロッソさんは懐かしむような表情でそう言った。
「そうだったんですね」
昔同じようなことをしてもらったから、俺に対しても同じことをするのは当たり前のことってことなんだろう。
「だからこれに少しでも恩を感じているんであれば俺に返すんじゃなく、坊主も将来同じような状況になっている奴が居たら同じようなことをしてやれ」
「わかりました。その機会があればロッソさんと同じようにしてあげようと思います」
「ああ、そうしろ」
そうロッソさんが言葉を返してきたところで依頼票が出来上がったらしく、ニアさんがロッソさんに声を掛け、そのままその依頼を俺が受けることになった。
本当にガンズさんたちといい、ロッソさんといい、このギルドはいい人が多いなぁ。休憩スペースを宿代わりに使わせてくれているギルド長や職員の人たちにも感謝しかない。
今の俺じゃあ何も返せないけど、いつかは何らかの形で恩返しが出来たらいいな。




