形見
本日2話目
どうにか採掘者としての生活に慣れてきた。
採掘者というにはまだ一度もダンジョンの中に入ったことはないけれど、それでもしっかり採掘者として依頼をこなし、お金を稼いで生活はできている。
少し前にようやく胴用の皮の防具をそろえることが出来たので、これで見た目もどうにか採掘者っぽくなっただろう。
「おうちび助。この時間にここへ来たってことは依頼が終わったのか」
依頼完了の報告をするためにギルドの建物の中に入ると、ギルドの中にある昼間は休憩スペースと化している酒場に居た大柄の男に声をかけられた。
「あ、ガンズさん。今から確認してもらうところです」
「そうか、ってお前。その袋なんだ?」
俺が持っていたピゴニャータの討伐証明部位を入れた袋を見たガンズさんがこちらに近づいてくる。
ガンズさんはこのギルドを拠点に活動している採掘者の1人で、その中でも上位の実力を持っている人でもある。
メインで使っている武器は大斧で、その大柄な体躯から繰り出される攻撃は並みの魔物なら一撃で葬れるほどの威力だ。
そんなガンズさんなのだが、どうしてか新人でレベルも上がらない俺を気にかけてくれている。
いろいろ教えてくれるため助かってはいるんだけど、少々強引なところもある人なので
「なんだこれ」
「あ、これは俺が前に着ていた服がだめになりそうだったので、袋に改造したやつです」
「はあ?」
ピゴニャータの討伐依頼を達成するには、ピゴニャータの頭部にある棘を取ってこないといけないんだけど、大量に討伐するとその証明部位を持ってこれなくなるんだよ。どうしても手に持ちきれなくなるし、ズボンのポケットに入れるには少し鋭利すぎた。
最初の内は手で持てる数しか討伐できなかったからよかったが、最近は普通に100体近く討伐することがあるからさすがに持ちきれなくなっていたのだ。
だったら鞄を買えばいいと思うが、鞄って意外と高価なものなのだ。装備と鞄で天秤にかけて、装備を整えるのを優先したことで鞄を買うお金が無くなった。
適当な袋を買ってもよかったんだけど、防具を買うついでにちょうどぼろくなっていた服を買い替えることが出来たので、もう使わない古い方を適当に改造して袋として使っていたのだ。
「いやちび助。さすがにそれはどうなんだ」
「見た目は悪いですけど、普通に使えているので」
「いや、まあ見る限りはそうだが、装備を買えるくらいには稼げるようになったんだろ。鞄なりリュックはこれからも使うことになるんだからそっちにも金を回せよ」
「それはそうなんですけど、できれば先に武器を買いたくて」
装備は整えた。だが、それ以外はまだそろえられていない。得も武器なんて、最初に拾った枝をまだ使っている状態。出来れば鞄よりも先にこちらを新調したいのだ。
「ああ、そういやちび助の武器はそれだったな。ぬう」
俺の言い分も理解できるらしいガンズさんは少しの間うんうん唸っていたが、何かを思いついたのか顔を上げ俺の顔を見ると、
「そうだ。いいのがあった。ちょっと待ってろよ!」
そう言って俺が何を言うよりも早くギルドから出て行ってしまった。
ギルドの中には他にも採掘者の人が居たが、その人たちも勢いよく出て行ったガンズさんを不思議そうな目で見送っていた。
「待ってろって何だろ」
とりあえずガンズさんが帰ってくるまでに依頼の達成報告を終わらせておこうか。
依頼の完了を報告して、出て行ったガンズさんを待つ。
待ってろよ。と言われたものの、何なのだろうか。
「おう。持ってきたぞ」
そう声を出しながらギルドに戻って来たガンズさんの手には鞄が握られていた。
「ガンズ。その鞄は……」
面白そうという理由で俺と一緒にギルドの休憩スペースで待っていた、ガンズさんの仲間であるリズさんが鞄を見てそう言葉を漏らす。
ガンズさんはリズさんの反応を見て小さく首を横に振った。
リズさんはこのギルドに所属している採掘者の中でも珍しい魔法を使うことのできる女性である。仲間である大柄でちょっとアウトローみがあるガンズさんとは違い、かなり見た目のいい女性だ。
なんで採掘者をしているのかとか、どうしてガンズさんの仲間になっているのか、気になるところが結構ある人でもある。
そんなリズさんが、ガンズさんが持ってきた鞄を見て反応を示したという事はあの鞄には何かがあるのだろう。
「これをお前にやる」
ずいっと目の前に鞄を差し出される。
「いいですか? 何か大事なものなんじゃ」
2人の反応からして何かあるのは間違いないし、そういったものを受け取るのはさすがに無理だ。
「別に大事な物ってわけじゃねえ。昔一緒に活動していたやつの形見みたいなものってだけだ」
「いや、いやいやいや。むしろそれの方が受け取れないですって!?」
まさかの形見!?
いやさ。どうしてガンズさんとリズさんは2人で活動しているのかと思ったけど、元々もう1人いて3人組だったってことだよな、これ。
「形見っつっても、数あるうちの1つだし俺が持っていたところで使わねぇからな。宝の持ち腐れとまでは言わねぇが、誰かが使ってくれた方があいつも喜ぶだろ」
「それも、そうね」
ガンズさんの言葉にリズさんが同意する。
採掘者はダンジョンに潜り魔物と戦うことの多い職だ。そのため、その中で亡くなってしまう人が多い。
だからこういう装備品というのは珍しいものではなく、中古装備店にはこういった装備は割と置かれていたりする。
ガンズさんの言いたいことは十分わかる。元の持ち主がどんな人物だったかはわからないけど、2人の反応を見る限りいい人だったのだろう。
「いいんでしょうか」
2人が納得しているとはいえ、本当に貰っていいものか。
「貰ってあげて。私たちもそろそろ吹っ切れないといけない時期だし、ずっと保管していて駄目にするより使ってもらった方がこの鞄にとってもいいでしょうから」
少し思い出すような表情をしたリズさんが俺の前に置かれた鞄を見てそう言った。
「わかりました。ありがたく使わせてもらいます」
「おう、使え」
ガンズさんは嬉しそうにそう言うと俺に鞄を手渡した。




