最近なんか体が軽い気がする
本日も3話更新になります。
採掘者として活動し始めてから数日。
いまだにギルド内の休憩スペースで寝泊まりしている生活が続いている。
そろそろ宿を取ってそこで寝泊まりできるようになりたいところだけど、今の収入では宿に泊まるだけでその日の収入がほとんどなくなってしまう。そうなると食べ物を買う余裕がなくなってしまうため、宿で休めるようになるのは当分先の話になりそうだ。
一応ギルドで寝泊まりする許可は取っているので当分はこのままでも問題はないのだけど、ギルドの中だとしても絶対に安全とは言えないので、宿が取れるに越したことはない。
「今日の依頼はピゴニャータ。明日の依頼もたぶんピゴニャータ」
まだ採掘者として最低ランクの俺にはダンジョンの中に入る許可が出ていないので、これと薬草の採取くらいしかできるものが無い。
他に手伝い系の依頼があったと思ったんだけど、どうにもギルドの周りに住んでいる一般人が少ないせいで、その手の依頼はほとんど来ないらしい。
これはちょっと想定外だった。
薬草の採取はピゴニャータ討伐のついでにやっている。ただ、ピゴニャータと違い、他の草と見分けるのが俺には難しいのであまり数が取れないのが辛い。
依頼の報酬は薬草採取の方が高いのでこっちで稼ぎたいんだけど、できないんだよなぁ。まあ最初に比べればどうにか見分けがつくようになってきているから、徐々に収入は増えていく……と思いたい。
初日に受けたピゴニャータの討伐依頼はちゃんと達成できて、あの後ギルドの近くにあった串焼きの屋台でビープの串焼きを買った。
ビープというのは家畜化された豚型の魔物のことで、今回買ったのはこいつの肉を一口サイズに切り出し、それを焼いてたれを付けたもで、正直よくある串焼きの1つだ。
初めて食べる味じゃない。ぶっちゃけありきたりな味の串焼きでしかない。
今までだったら何も考えず食べていたようなそんなものだ。
しかし、あの時食べた時の気持ちは言い表すのが難しい。
1日以上ぶりの食事だった。家を追い出されてからここに来るまで何も食べていなかったから、その分おいしく感じた。
自分で稼いだお金で初めて物を買って、それがうれしかった。
だけどそれ以上に、今まで普通に食べていた物も簡単に手に入らなくなってしまった、その事実を痛感して哀しくなった。
そんな複雑な感情の中、少し涙ぐみながら串を頬張っていたら、何かを察したのか屋台のおっちゃんが少しだけ肉を足してくれた。
その厚意さらに涙ぐみながら俺は、この世界にも優しい人はいるんだと今更だけど思い知り、少しだけ嬉しい気持ちになっていた。
そんなことがあってから少し経ち、どうにか1日2食まで食べられる収入を得られるようになり、今では少し余ったお金で自分の装備を整えられるようになった。
まあ、整えられるようになったと言っても、溜められたお金は微々たるもの。買えたのはまだ手にはめるグローブがせいぜいなんだけどな。
他の装備はまだ先のことになりそうだ。
それで今日も昨日と同じくピゴニャータ狩り。
初日に比べてあまり数が討伐できなくなってきたから、そろそろ他の場所に移動する必要がある。
しかし、最近俺自身の動きが早くなってきた気がするんだよな。ただ、動くのに慣れてきただけの気のせいかもしれないけどさ。
「こう、異世界に転生したらチートスキルとか手に入るものだと思っていたんだけど、俺にはそういうのって無いのかな」
レベルの上限が1である以上、覚えられるスキルは1つだけだ。その1つをどうにか使ってこれから生きて行かなければならない。
この世界に生まれた経緯もよくわかっていないのだ。ただ、前世の記憶を持っていて、他の同年代の子供たちよりも少し物覚えが良かったり、本来知らないはずの知識を持っていたりと、多少の利点はあったもののそれ以外で転生特典と思われるものを得た感覚はない。
「本当にたまたま俺が転生者として選ばれただけなのかな」
現実は物語のようにはいかない。それはわかっている。
とはいえ異世界転生している段階で十分非現実的な状況に放り込まれているのだ。他に何か力を得ている可能性はあるかもしれない。
「でも、それも希望的観測過ぎるか」
今はあるかどうかもわからない存在に縋るくらいなら、着実に今を生きるために行動するべきだ。
多少稼げるようになったと言っても、それだっていつまで続くかわからない。次に俺みたいな境遇の新人がやってくればピゴニャータの討伐依頼を譲らなければならない状況になるかもしれない。そうなれば他に稼ぐ方法がない俺は野垂れ死に一直線になりかねないのだ。
「あるのかわからない事を考えるより、今は着実に採掘者として経験を積んで、ピゴニャータ以外の依頼を受けられるように頑張らないとな」
それに最初は鬱々とした気持ちで始めた採掘者だけど、何だかんだ依頼を熟すのは苦じゃないし、ギルドで寝泊まりするようになって先輩採掘者の中には何かと気にかけてくれる人もいるから、最初に思っていたよりも楽しくやっていけそうな気配もしている。
まだまだ不安なことはあるけれど他人よりも才能がない以上、急がず着実に前に進み続けなくちゃな。
そんなことを考えながら俺は今日の依頼を完了させるため、いつもと同じようにピゴニャータがいる林の中に入っていった。




