よくこの見た目で無事だったな
ギルドに着いた翌日。
利用者が増えてきてギルドの中が騒がしくなったことで目を覚ました。
仮眠室の壁に掛けられた時計で時間を確認すれば11時を過ぎたことを示していて、すでに朝とは呼べない時間になっていた。
普段であればとっくに起きて外に出ていた時間だったが、昨日の疲れがまだ残っているのか、寝たのに体がだるい気がする。
昨日から何も食べていないからその影響かもしれない。
「二度寝は……ダメだよね」
すきっ腹で気分も良くないが、また寝たところでそれが変わるわけもない。だるさが残る体に鞭を打ちながらベッドから体を起こした。
昨日、男の職員が朝に俺のカードについて確認を取ってくれると話していたから、受付に行ってどうなったのかを確認しなければ。
簡易ベッドから降り、軽く場を整えてから受付に向かう。
途中、採掘者らしき人たちとすれ違い、不思議そうな表情や憐みのような表情を向けられた。
おそらく後者は俺の姿を見てどういう経緯でここに居るのかを察していたのだろう。
「あの、すみません」
受付に着き担当の女性に声をかける。
「はい、どうぞ。って、あ、昨日の子」
「えっと」
「ちゃんと眠れましたか? 他に利用者がいなかったので、結構静かだったと思いますが」
「あ、はい。ぐっすり眠れました」
まだ眠り足りない感じはあるけれど、ぐっすり寝たことに違いはないよな。
「うーん。それにしては少しお疲れのようですが。昨日は遅くにここへいらっしゃったからでしょうか」
「そうだと、思います」
今までだったらとっくに寝ている時間だったからなぁ。微妙なだるさもそのせいかもしれない。
「なるほど、それと……」
そう言うと受付の女性はじっと俺のことを観察するように下から上に視線を滑らせた。
馬鹿にされているとか、見下されているとか、役所であった嫌な視線ではなく、本当にただ確認しているだけの視線。
「男の子だったんですねぇ」
「え。あっと、はい」
昔から結構勘違いされることがあったが、俺の見た目ってかなり女の子っぽいんだよな。そろそろ12歳だって言うのに自分で見ても線が細いというか、男っぽさがあまりないというか、特に顔がかなり女顔といか童顔というか。勘違いされないように髪も短く整えているんだけどな。
……うん。正直言うと自分で自分の姿を見ても女にしか見えないんだよな。ま、同世代の女の子に比べて胸も尻もないから、その辺はちゃんと男なんだが。
ただ、この見た目って少しコンプレックスだったりする。
さらに言えば、艶のある黒髪なのも女に見られることに拍車をかけているんだと思う。親たちはそういう感じではなかったのにどうして俺だけこうなったのか。やっぱり転生者だからなんだろうか。
昔から遊んでいた相手にも女だと勘違いされていたし、というかこの前までそう思われていたと知った。
まあ、そいつは俺のレベル上限が1であることを知った瞬間に見下すような視線を向けてきたから、二度と会うことはないだろうけど。
よくよく考えてみれば、よくここに来るまで何もされなかったよな。自分でいうのもなんだが。
この世界の治安はそこまで悪いわけではないが、人さらいは普通に存在している世界ではある。子供が1人で外を歩き回るってことはそうあるものではない。ましてや女の子が一人で外を歩いていたらどうなるのかなんて想像に難しくない。
逆にその状態に警戒されて手を出されなかったのかもしれないけど。
「ではでは。採掘者としての登録を進めていきますね」
「お願いします」
役所の女性と全く違う対応に戸惑う。これが普通だと思うんだが、昨日一日にあった出来事が強烈過ぎて、実は裏で何かあるのではと考えてしまう。
「役所から情報は朝のうちに受け取れました。こちらになるのですが、確認してください。不備があれば、こちらの筆記具を使って訂正をお願いします」
「はい」
そう言って差し出された書類には昨日俺が役所で記載した情報が、俺の字ではない丸っこい字で丁寧に書き込まれていた。おそらく書類が届いたのではなく口頭で情報を伝えられて、それを別の誰かが書き留めたのだろう。
書類の内容を他の人が書いても問題ないのか気になるところだが、特に間違いはなかったので訂正することなくそのまま書類を受け付けの女性に返却する。
「このままで大丈夫です」
「了解しました。このまま登録を進めますね」
「お願いします」
受付の女性は返された書類を受け取り、その内容を慣れた動きで別の何かに書き写していたが、その途中でピタッと動きを止めた。
何か問題でもあったのかと様子を伺っていると、受付の女性は書類から視線を外し、俺へ視線を向けた。
「レイトさん」
「えっと、何か問題でも?」
書類の内容は間違っていなかったし、ウソの内容を書き込んでもいないはずなんだが、何か問題がある箇所でもあったんだろうか。
「あ、いえ。書類に問題があったわけではないので大丈夫です。ただ、ごめんなさい。採掘者として活動する際の名前に関しての確認を忘れていたのですが、どうされますか?」
「活動する際の名前?」
「採掘者になる方の中には本来の名前を名乗らず、採掘者としての名前を決めている方もいるんです。有名な方の中にも採掘者としての名と本名が異なる方は何人もいますね」
「なるほど」
役所で記入した書類にはそんな内容はなかったと思うんだが。しかし、なるほど。
言われてみれば家を追い出されたというか親に捨てられたわけだし、このまま今の名前を使い続けないといけないわけでもない。今の名前に思い入れがないわけではないが、気持ちの切り替えと縁切りの意味を込めて別の名前で活動するのはありだな。
「どうしましょうか。特にないようでしたら本名での登録となりますが」
「採掘者としての名前で登録したいと思います」
「わかりました。ではこちらの用紙のこの部分に採掘者として使用する名前の記入をお願いします」
手渡された書類の指定された部分にこれから使う名前を記入する。あれこれどんな名前にするか考えても良かったんだが、ぱっと思い付いた名前が今の俺のしっくりくるような気がして、それを使うことにした。
「これで良し」
しっかり間違いなく書き込んだことを確認して、書類を受付の女性に提出した。
「ありがとうございます。ええと、活動名はゼロ、でよろしいですか」
「はい」
家無し、金なし、道具無し。さらに仲間もいない。まっさらなゼロ。自虐っぽくはあるが、実に今の俺にピッタリの名前だ。
「わかりました。この情報で採掘者の登録を進めていきますね」
「お願いします」
受付の女性は書類を受付の後ろにあった機械まで持っていくと、その中に書類を挿入した。
機械の内部から少し光が漏れているが、書類から書き込まれた情報を読み取っているのだろうか。
十秒ほど光を漏らしていた機械が止まり、それを確認した受付の女性が機械の中に入っていた書類と、いつの間にか出てきていたカードを見比べ始めた。
そして2度ほど頷いた後、書類は別の場所にしまいカードだけ受付の場所まで持ってきた。
「採掘者カードも問題なく発行できましたので、後はこのカードにあなたの魔力を登録することで正式に採掘者として登録されます。こちらの機械のここに手を置いてください」
受付の上に置かれた機械に言われた通り手を置く。するとふっと機械が光を放ちすぐに収まった。
「これで魔力によるカードの紐づけも完了しましたね。お待たせしました。この瞬間からあなたは採掘者です」
「ありがとうございます」
受付の女性から採掘者カードを受け取る。本当に役所と違いしっかり対応してくれたのが嬉しいくなり感謝を伝えた。
ゼロからのスタート。まずはゼロをイチにするところから始めて行こうか。




