対応の違い
町を出て半日以上かけダンジョンギルドのある村に着いた。
すでに日は暮れているし、夜中どころか深夜と言える時間になってしまったため、村の中にある建物の明かりはほとんどついていない。
「この時間でもギルド、やっているといいんだけど」
一応ダンジョンギルドは24時間年中無休で営業している機関ではあるが、場所によっては人が少ないと訪問者が少ない夜間は閉まっていることがあると聞いたことがある。
もしかしたら朝まで野宿することになるのではないかと、不安になりながらもギルドがある場所を目指して村の中を進み、数分歩いたところでダンジョンギルドと書かれたまだ明かりがついている建物を見つけた。
「やってた。よかった」
ギルドの中に入れば深夜ということもあって受付で眠そうにしている女性以外の影は見当たらなかった。
すぐに採掘者として登録したかったのだが、受付を担当している人が女性だったことで役所のことを思い出し、受付に近づくのが怖くなってしまった。
またあの時みたいな対応をされたらさすがに心が折れる。
人生二度目ではあるものの転生したって自覚があるだけで、前世のことはあまり覚えていないんだよな。一応知識なんかは結構覚えてはいるが、自分の性別はおそらく男でそこまで年を取っていなかった気がする程度で、自分がどんな人間だったのかほとんど思い出せないのだ。
どうして受付って女性の方が多いんだろうな。
「あら、こんばんは。こんな時間にどうしましたか?」
あれこれ二の足を踏んでいる間に受付の女性が俺のことに気付いたらしく声をかけてきた。
「あ、えっと」
「う~ん。迷子、でしょうか」
「いや、そうじゃなくて」
こんな時間に迷子が来るわけないだろう、と思ったが、年齢や見た目を考慮したらそう思われてもおかしくはないなと思いなおす。
「?」
「これを」
身を乗り出して俺のことを観察していた受付の女性に仮カードを渡した。
「これ、仮カードってことは採掘者の登録をしに来たんですか。……こんな時間に?」
確かに深夜に登録をしに来る人なんてそうそう居ないかもしれない。
本当だったら日が沈んですぐ、夜の七時か八時くらいに到着する予定だった。だが子供の足でってことを考慮していなかったからこんな時間になってしまったわけだ。
「うんまあ、何か事情があるんでしょう。手続きをするので――、あーえっと、少々お待ちください」
俺の様子を見て何かを察したのか、そのまま仮カードを受け取ってくれた。しかし、その仮カードの内容を見た瞬間、気まずそうな表情をして受付のある場所の裏にあるドアの中へ入っていってしまった。
「そういえばカードの内容確認していなかったな」
役所の中からさっさと出たかったし、ここに来るまではなくさないようポケットの中にしまい込んでいたから詳しく確認するのを忘れていた。
いや、カードの内容というよりは俺のレベル上限が1だったからそこが駄目だったのかもしれない。
誰でもなれる採掘者とはいえこんな無才な奴がなろうとしたのが論外と判断された、というのもありそうだ。
そんなネガティブなことを考えているところで奥から受付の女性がガタイの良い男を引き連れて戻ってきた。
これはあれか、無理やりにでも採掘者にならないよう脅される奴なのだろうか。
「君がこのカードを持ってきた子かな」
「え、あ、はい」
ガタイの割に丁寧な口調で話しかけてくるという想像とは違った対応のギャップで混乱するが、どうやら悪いことになるような雰囲気ではないようす。
「この仮カード、年齢以外記載されていないんだが、どこで発行してもらった物かな」
「え? どういうことですか」
「確認していなかったのか、そういうものだと説明されたのかわからないが、見ればわかる」
そう言って仮カードを返されると確かにカードには年齢の部分には11歳と記載され、そ例外の他の欄は空白になっていた。
「本当だ」
「どこで発行したのかな」
「あ、えっと、ここから一番近いネレスの町にある役所です」
窓口さんが再度聞いてきたのですぐに返事を返す。若干町の名前がうろ覚えだったが聞き返されなかったのであっていたのだろう。
しかし、書類には必要な部分をすべて書き込んでから申請したのにどうして、いや、あの窓口の女性がわざとそうしたのか。
「またあそこか」
「また?」
男が呆れた様子を見せているところから、もしかしたら俺と同じようにろくな対応をされなかった人が前にもいたのかもしれない。
「ああ、気にするな。とりあえず、仮カードがこの状態では採掘者としての登録をすることはできない」
「そんな」
ここまで来て登録できないとか最悪だ。あそこに戻ってまた役所で手続きしないといけないのもすごく嫌だ。
「ただ、これに関して君に非はないし、この状態で渡してきたのは役所側のミスだ。あちらの窓口があく朝一で確認を取って問題がないのであれば手続きを進めることになる」
「朝」
戻らなくていいのは本当に安心したけど、朝まで待たないといけないのか。
これはどこで寝ればいいんだろう。ここは採掘者が多い場所だろうし、あまり治安がいいイメージがわかないんだけど。
盗まれるようなものはないから気にするほどでもないか。
「ま、ちゃんとした物を持ってこられても今はどのみち業務時間外だからな。この手の申請は朝になってからじゃないと出来ない。ところで君は、どこかに泊まる予定はある…わけないよな」
「はい。お金もないし」
俺の身なりを見て事情を察したのだろう。男は質問の言葉を途中で切り、少し憐れむような視線を向けながら最後の言葉を出した。
着の身着のままここまで来たからな。持ち物と言ったら着ているものと仮カードくらいしかない。これで追い出される時に、今までちょこちょこ貯めていたお小遣いを持ち出せていたら、ここに来るまでの道のりもだいぶ変わっていたんだろうけど。
あの金、どうすんのかなぁ。俺のことはいなかったことにするっぽかったし、よくてみんなの食費行きかな。せっかく将来の活動資金として貯めていたっていうのに哀しいわ。
「なら、当分の間はギルドの仮眠室を使いなさい。ずっと使い続けさせるわけにはいかないが、しばらくの間使用許可を出しておく」
「いいんですか?」
「まあ、ギルドの中ではあるが鍵がついた場所ではないから、絶対に安全とは言えないが」
その提案はとても助かる。完全に安全ではないとしても外で寝るよりは確実に安全だろうし、仮眠室ってことはベッドもあるはずだよな。
「ありがとうございます」
「あそこは君みたいな人のために存在している場所だから感謝はいらないさ」
そう言うと男はそのまま奥へ戻っていってしまった。
「それじゃあ、仮眠室へ案内するね」
「はい」
俺は受付の女性に連れられて仮眠室へ行き、そのままベッドに横になるとこれまでの疲れの影響か速攻で眠りに落ちていった。




