日常と許可取り
ランクアップ試験から数日。
地上に戻ってくる中で手に入れた魔石をギルドに卸して当面の活動費を手に入れ、それでギルド長から借りた宿代を返却し、とりあえず1ヵ月分の宿代を支払い寝泊まりできる拠点を確保した。
「オーさんからのお願いもあるし、もう少ししたら一回あっちに戻らないといけないよな。急がないでいいとは言われたけど、さすがに長期間待たせるのもな」
ダンジョンの中で俺を助けてくれた恩人であるオーさんからあるお願いというか依頼を受けているので、それも忘れずに熟さないといけない。
まあ、早急なお願いや重要なお願いというわけではなく、ついでに程度のお願いなので行けそうなタイミングがあればその時に行くことにしよう。
「とりあえず腹ごしらえかな」
すでに昼を回ろうとしている時間。
昔だったら朝一でギルドに向かい依頼を受けて、それを熟している時間だろう。しかし、今はまとまったお金が手元にあるため焦って依頼を受ける必要はない。
グニアスの町の中心にある広場に向かう。ここにはいくつか屋台が出店しており、軽食ではあるが食事をとることが出来る。
もうビープの屋台はないが、クロッソという鶏のような家畜化したモンスターの肉やアンゴスという牛っぽい家畜化したモンスターの肉を使った串焼きやサンドウィッチを出す屋台が並んでいる。
昼食のつもりでここへ来たので、串焼きではなくアンゴス肉を使ったサンドウィッチを購入して、適当な場所に腰かけそれを食べる。
「これも昔の金銭事情なら絶対に買えない値段なんだよな」
1食でピゴニャータの討伐数回分のお金が必要なサンドウィッチなんてまず買えなかっただろう。
そもそも昔はこんなに値の張る食事を売っている屋台は存在していなかった。これはグニアスが昔に比べどれだけ稼ぎやすい場所になったという、それを示す指標のような物だろう。
周りには俺と同じように屋台で食事を購入して各々の場所でそれを食べている光景が広がっている。
「変わったよなぁ」
そもそも前のグニアスにも広場と呼べるような場所はあった。しかし、今の様に地面は整備されていないただの土で、綺麗に石畳が敷き詰められてはいなかった。屋台だって俺が買っていたビープの串焼き屋台くらいしかなかった。
昔との違いを実感しながら昼食を終え、一度ギルドへ向かうことにした。
お金があると言っても無限ではない。動けるときにお金を稼いでいた方が、何かあった時に助かるものだ。
ギルドに到着し、この時間でも残っている依頼を確認する。
大抵この時間に残っている物は、しばらく誰も受けていないような、俗に言う塩漬け依頼という物が多い。後はたまたま近々に張り出された新規依頼。
「まあ、変わらず」
張り出された依頼票を見て、昨日同じ時間に見た依頼の種類と変わっていないことを把握した。
「やっぱり北方向の依頼は残りがちだな」
ゴルドーに教えてもらったウルフナイトの拠点近くが依頼場所の物は不人気なのか、誰にも手を付けられずに残っていた。
「昨日に比べて1つ減ってはいるが、本当に避けられている場所なんだな」
いっそ自分が受けてみるのもありかと、少し怖いもの見たさの好奇心が顔をのぞかせたが、面倒ごとは嫌だという気持ちが勝り手を出すのを止めた。
「あ、ゼロさん。おはようございます」
「ん? ああ、おはよう」
今日も依頼を受けなくてもいいかと掲示板の前を離れギルドを出ようとしたところで、ちょうど依頼を達成して戻って来たと思われるラムと遭遇した。
「ゼロさんも依頼が終わったんですか?」
「いやぁ、俺は今日もまったりしていた感じ」
「そうなんですね」
昨日も街中でラムとゴルドーに遭遇して同じようなやり取りをしていた。2人はまだ依頼の最中だったらしいのでその場ですぐ別れたが、今日は依頼を達成したタイミングで遭遇したらしい。
「昨日はバタバタしていてごめんなさい」
「いいよいいよ。依頼中だったんだから、むしろあれが正解」
ラムもゴルドーも基本はソロで活動しているようで、たまに複数必要な依頼を受けるときは2人で受けることがあるとのこと。
力関係ははっきりしているが、何だかんだ仲の良い2人である。
「2日前も会ったのにあまりお話できませんでしたし、申し訳なくて」
「会話って無理にするような物じゃないんだけどね。そう言えばあの時は何で急いでいたんだ?」
ラムを助けた2日後。今から考えるとラムが言った通り2日前にもギルドの中で会うことがあった。
その時は足の怪我がほとんど治ったという話を聞き、獣人の回復力に驚愕しつつ、ほぼその話しかできないままラムは急いでどこかに行ってしまった。
「あの日はダンジョン中で職員の方と転移トラップの確認に行っていました。他に被害者を出さないように少しでも早く場所の特定をしないといけなくて」
「ああ、なるほど」
ラムが俺とダンジョンの中で遭遇したのは転移トラップに嵌って下層の奥まで飛ばされてしまっていたからだ。
それと同じような被害を出さないように被害に遭ったラムを連れてギルド職員が場所を特定してバリケードを設置し、注意するための看板を設置しに行ったということか。
今の話を聞いて疑問に思ったんだが、ラムの配信を見ていれば場所の特定自体は出来ると思うんだけどな。本人を連れて行ったということは、バリケードなどをするためには本人の確認が必要などの制約的なものでもあるのだろうか。
「あ、そうだ。あのゼロさんに確認しないといけないことがあって。ああ、でもその前に依頼の報告をしないと。ごめんなさい。ちょっと行ってきます!」
「あ、急がなくてもいいぞ。この後の予定もないし」
「ありがとうございます」
ギルドに戻って来た目的を思い出したラムが急いで受付に走って行った。
依頼の達成報告も時間の制限が無ければ焦る必要もないのだが、何と言うかあの少し落ち着かない小動物っぽさがラムの魅力なのだろうとこの数日で感じるようになった。
「お待たせしました」
「待ってはいないけど、まあいいか。それで確認したいことって何かな」
「あの、確認というか許可というか、ゼロさんに判断してもらいたくて」
「許可?」
「あ、はい」
俺がラムに許可を出すようなことなんて何もないと思うんだが。
「あのですね、今日もダンジョンに潜って依頼を熟しながら配信をしていたんです」
「うん」
「そこでですね、ゼロさんのことをしつこく聞いてくるコメントが多く来ていまして、配信中はどう答えるのがいいのかわからなくて無視したんです。まあ私はあまりゼロさんのことを知っているわけではないので、無視しなかったとしても答えられるようなことはほとんどなかったんですけど」
「あーはいはい。なるほどね」
ラムの視聴者があの後、俺とどうなったのかを知りたがったという感じか。一応、あの時俺が男だって明言したはずだし、もしかしたらガチ恋勢とかいうのが暴れている可能性もありそうだ。
「私の配信でゼロさんの名前を出していいのかという確認と言いますか、許可取りをしたくて。私としてもゼロさんの話をしたい気持ちもありますし」
「うーん。そうかぁ」
個人的に言えば別に許可を取らなくてもいいという判断になる。ただ、この件についてはギルド長と少し話をしているのだ。
俺は4年前のダンジョン崩落に巻き込まれた採掘者であり、唯一の行方不明者であり、4年ぶりに生還した存在である。
これが公表されれば話題になることは間違いない。相当注目されるだろうし、本当に本人なのかと疑惑の目も向けられるだろう。
ギルド長はいずれ公表しなければならない事ではあると言っていたが、どのような形式で公表するかは慎重に検討すると言っていた。
そのため、下手にラムの配信で俺の名前を流すというのはリスクと言えばリスクである。
「それはちょっとギルド長に相談かなぁ」
「え、ギルド長?」
俺の存在を云々という判断はギルド長に委ねている状態なので、ラムの配信であってもギルド長の判断を仰いだ方がいいだろう。




