視線
急に現れた男に対しゴルドーは面倒そうな表情をしながらその男を睨む。
「案内中ぅ? なら俺がしてやろうか? これでも俺はウルフナイトの一員だからな。この町には詳しいぞ」
「ウルフ…何?」
どうやらこのゲハという男はウルフなんちゃらという物に属しているらしい。それが何なのかはわからないが、当たり前と言った感じに自慢げに口に出すということは有名な存在なのだろう。
「知らないのか?」
「ああ」
4年ぶりに地上に戻って来た俺が知るわけがないんだよなぁ。ダンジョン崩落前からあったならともかく、その後にできた物を知っているわけもない。
「この町で一番強い採掘者が所属するパーティーだぞ!? 知らないなんて……いや、そうか。今日来たてだから案内されているわけか。なら、余計に俺が案内してやった方がいいじゃん!」
「おぉぅ…」
ゲハの勢いに押され身を逸らす。
久しぶりに人と会話している中で、ここまで勢いが強いのはどう対処した方がいいのか判断ができない。
「ゲハ、勝手に話を進めようとするな。困っているだろう」
困っているというか、呆れているというか。なんというか自分の中にある世界が狭いタイプの人なんだろうな。自分の中にある常識と世界の常識が同一であると思っているタイプ。
しかし、この町で一番強い採掘者か。俺が知っている限り、グニアスで一番強かったのはロッソさんだったが、あれから時間が経ち村も発展した以上いろんな採掘者がこの町に居るんだろうな。ゴルドーも見た限り結構強いのはわかるし。
「ええ、ホント? お前にとって都合が悪いからそう見えているだけじゃね?」
「はぁ」
ゴルドーが呆れたように息を吐いた。
このゲハという男と対峙してからのゴルドーの反応を見れば、ゲハという人物が普段からこういう存在なのだろうことが分かった。
ラムはすでにゴルドーを挟んでゲハを視界に入れないようにしているし、ラムにとってもあまりいい人物ではないのだろう。
「いっそ、君もウルフナイトに入らないか? 女は少ないけどその分ちやほやされやすいと思うぞ。特に俺とか俺とか俺とかからさ」
なんというか必死過ぎるな。女性と一緒に居たいということなんだろうが、ここまでがつがつしていると逆に遠ざかっていくと思うんだが。
「普段からそんなことを言っているから、女性が離れて行くんだぞ。少しは自覚したらどうだ?」
「うるせぇよ!」
ゴルドーの指摘に逆ギレ気味にゲハが吠える。しかし、そう言う反応をするということは自覚はあるのだろう。
もしかしたら、女性に対してそう接したらいいのかわからないだけの不器用な男なのかもしれない。というか、ゴルドーに対しても同じような接し方をしているとなれば、人との接し方が壊滅的に下手という可能性もあるな。
「お前はいつも小言ばかりだ! 他に言うことはないのか!」
「それはお前の態度次第だ。会うたびラムリタにちょっかいを掛けようとするからだ。それがなければもう少しましな対応はしている」
ゴルドーも嫌な顔はしているけど、何だかんだこの男のことを気にしてはいるようだ。あしらい方や話し方から結構長い付き合いがありそうな感じもするし。
「もういっそゴルドーも一緒にウルフナイトに入ってくれよ。そうすれば後の2人も一緒に入ってくれるだろ」
俺は別に今後ゴルドーと一緒に行動するつもりはないし、ラムの反応を見ればいくら兄のゴルドーが入ったとして、ラムが付いてくる可能性はほぼないと思う。
「ゲハ」
「ん?」
言動と行動から小物感が漂ってきていたところで、ゲハの後ろから1人の男が近づいて来ていた。
その男はゲハの隣まで来ると、ゲハのことをにらみつけた。
「あ、アルケスさん。こ、こんなことろで何を?」
ゲハが明らかに焦った表情をする。
ゲハの後ろから現れた男はを観察する。見るからに性能の良い装備に武器。立ち振る舞いの強者感。ぱっとの見ではかなりのイケメンだった。
「君にウルフナイトへの勧誘許可は出していないはずだが、何をしている?」
「いえ、それは……」
ゲハは叱られた子どもの様に身を小さくして、言い訳を探すようにごにょごにょと口元を動かしている。
「うちの新人が勝手に声を掛けてしまい申し訳ない。ゴルドーも毎度こいつの相手をしてもらって悪いな」
「まあ、いいさ。こいつは直接手を出すだけの度胸はないだろうからな」
「君たちも本当にすまない。こいつはこちらでしっかり教育しておく」
アルケスと呼ばれた男が申し訳ないと言った表情をして俺たちに向けて謝罪をしてくた。
嫌な視線だな。
表情は確かに申し訳なさそうなものになっているが、視線は全くその意思が見えない。
これは得物を見定めるような、明らかに友好的とは言えない視線だ。ゲハの下種な視線とは違う、明らかに攻撃性を孕んだ視線だった。
目は口ほどに物を言うという諺があるが、まさにあの視線はそれそのものだろう。
「これ以上、私たちがこの場に居るのはよくないだろう。ゲハは私が連れて行く。本当にすまなかったな」
「ああ、すまない。よろしく頼む」
ゲハを連れてこの場を離れて行くアルケス性質の姿が見えなくなったところでゴルドーが口を開いた。
「あいつらが俺が言おうとしていた注意するべき場所に関係している奴らだ。ゲハはまあ、ただの女好きの馬鹿だから適当にあしらえばいいが、アルケスに関してはそうはいかないだろう」
「そうっぽいな」
視線はわかり易かったが、それ以外は本当に取り繕えていた。視線に気づかなければ本気で謝罪をしていると思えただろう。
それに軽く見ただけでも結構な強さを持っているように感じた。ゴルドーも見た目通り強いと感じるが、あのアルケスという男はそれよりも間違いなく強いだろう。
「ウルフナイトが拠点として使っている場所の周囲はグニアスの中でも治安が悪い場所だ。あいつらがあの場所に拠点を構えた理由は治安維持と言っているが、果たしてそれがどこまで信じられるかわからない」
治安維持がしたいからとわざわざその場所に拠点を構えるのは攻めた考え方だな。普通なら周囲の反発などを考慮して離れた場所に作るべきだが、わざわざその場所に作る理由は公表している以外にもありそうではある。
まあ、まだ今のグニアスのことを知らない俺が聞いた話だけであれこれ判断するのは危ない。警戒はしておくべきだろうが、しばらく様子を見てから判断するべきだろう。
「ウルフナイトの拠点の位置は北の端にあるが、これは地図で示した方がいいだろうな。ラムリタの案内も終わっていたところだし、一度ギルドに戻って地図を見ながら説明しよう」
「ああ、ありがとう」
そうして町の案内も終わり、俺たちは一度ギルドに戻ることにした。




