案内と遭遇
ギルドを出てからラムたち2人にグニアスの町を案内してもらい始めて1時間ほど。まずギルド周辺の施設を案内してもらい、道なりを覚えつつ2人に付いて行く。
「ギルド周辺はこんな感じですね。多分採掘者ならこの範囲のお店を知っていれば十分活動できると思います」
「もう少しギルドから離れると一般住民用の店もあるな。服屋とか日常雑貨を取り扱う店なんかはギルドから離れて位置にあることが多い」
「そうなんだ」
採掘者とそれ以外の住民で住み分けをしている感じなのかな。
まあ、採掘者の中には昔から荒事を引き起こす者もいるらしいし、そう言う存在と遭遇し難いように町の構造としてそうなっているのかもしれない。
「もうお昼も過ぎていますけど、ゼロさんは食事は大丈夫でしょうか。ダンジョンから出てきて食べるタイミングがなかったと思いますが」
「そう言えば食べていないな」
ダンジョンの中で生活していたことである程度の空腹には耐性があるが、食べられる状況で食事をしないという選択をする必要もない。
しかし、ダンジョンから出てきてすぐの状態の俺にお金という存在は1セトたりともあるわけがなく、食事を買うという行為はそもそもできない。
「でも、手元にお金がないんだよな」
一瞬、今からでもギルドに戻って素材の買い取りをしてもらおうと思ったが、ランク1の状態では素材の買い取りをしてもらえるのかが分からない。
落ちる前に持っていたお金は落下した時の衝撃で外に出てしまったようで鞄からなくなっていたし、マジで一文無し状態だ。
「食事代なら私が出します。これでも若手の中では結構お金持ちな方なんですよ!」
「え、あー、それはちょっとなぁ」
自信満々にそう言うラムだが、俺としては同い年か年下と思われる少女から奢られる、という状況に後ろめたさが湧く。
正直、お金がないので有難い申し出ではあるのだが、少女に奢ってもらうという見た目的にもあまりよろしくない状況に断りを入れる。
「え、どうして」
俺がラムの申し出を断ろうとするとラムが悲しそうな表情をし、今まで元気よく立っていた耳もしおれたように前に倒れている。
100%善意の申し出を断られたら悲しくなるのはわかる。だが、さすがにこれを受け入れるのは、俺の心情的に難しい。
「ラムリタは助けてもらったお礼をしたいんだろう。1食くらい奢ってもらえばいい。それでも嫌なら俺が奢るが? 奢る理由なら俺もあるからな」
「あ、そうか。そういう考えか」
「1食程度じゃ助けてもらった恩は全然返せるとは思っていませんが、どうでしょうか」
別にたまたま見つけて助けただけなんだよな。しかしラム本人からすればそんな軽い話でもないのか。
案内はしてもらっているが、それだけじゃ足りないってことなのだろう。それに後々もっと大きなものをお礼として渡されるよりは、今ここで返してもらったことにした方が楽かもしれない。
「それじゃあ、お願いしてもいいかな」
「はい!」
直前まで暗い表情をしていたラムが俺の返事を聞いた瞬間にぱぁっと光が差したように笑顔になった。
そこからラムの案内で一押しの食事処に連れて行ってもらい、昼食をご馳走してもらった。
その中で嬉しいことにある人物と再会することが出来た。その人物は俺がグニアスに来た時からお世話になっていた串焼き屋のおっちゃん。
もう屋台での販売はしていないようだが、今ではしっかりした店を持って、採掘者から支持されるくらいの人気店になっているようだ。
このおっちゃんは採掘者関係以外での知り合いはほとんどいない中で、数少ない知り合いだったので再会できたのは本当に嬉しかった。
昼食も食べ終わり、店を出た。
「この後はどうしますか? 案内できる場所はまだありますけど」
「そうだなぁ」
これ以上2人を俺に付き合わせるのもどうかと思うが、しかし町を案内してもらうのは結構楽しい。
知っている場所のはずなのに、気付かぬうちに知らない場所になってしまっていたのは少し悲しくはあるが、見る景色全てが新鮮でなかなか悪くなかった。
「俺からも紹介、というか注意すべき場所の説明もしておきたいから、もう少し付き合ってもらえると助かるんだが」
「そうなんだ。じゃあ、まだ案内してもらえると嬉しい」
「わかりました」
そういえばギルドを出る前にゴルドーが紹介したいとか言っていて、それがまだだったな。
しかし、注意すべき場所か。まあここまで発展していれば人も増えているだろうし、暗いところは出て来るよな。
そう言ったところを教えてくれるのは非常にありがたい。面倒ごとは出来る限り避けるべきだろう。
「兄さんどうする? この後湖に案内するつもりだったんだけど、そっちを優先した方がいいかな」
「ラムリタの方を優先していい。俺の方は地図があればどうにか説明が出来る、つーかわざわざ近づいて説明するのも危ないからな」
「そっか、じゃあ湖に行こう」
「湖?」
危ない場所にわざわざ行く必要はないのはわかる。最悪面倒ごとが起きないとも言えないからね。しかし、湖なんてグニアスの近くにあったか?
「見たほうが早いです。こっちですよ」
そう言って先導するラムの後に辻てグニアスの町中を進んで行く。そして10分ほど移動したところで目の前に巨大な湖が現れた。
「これは……」
「ここはダンジョン崩落事件により地盤沈下したところに水が溜まってできた湖です。最初は元に戻そうとしたみたいなんですが、事件から一か月後くらいに近くの川から水が入ってどうにもできなくなってしまったみたいで、そのまま湖として整備したらしいです」
「そうなんだ」
対岸がかなり薄っすら見えていることから相当目の前の湖が大きいことが分かる。そしてその大きさは崩落範囲の広さでもあるわけだ。多分この湖の一部で俺も崩落に巻き込まれたのだろう。
「ギリギリまで崩落に巻き込まれた採掘者を探していたらしいが、水が入ってきたことで断念せざるを得なくなったと聞いたな」
「…へぇ」
たぶん俺ですね、それ。ギルド長が採掘者の中で行方不明になっていたのは俺だけって言っていたし。
この場で名乗り出ることはできないが、そうか結構ギリギリまで探してくれていたのか。まだ採掘者になって間もない将来的にも見込みが薄かったやつを探してくれていたことに少し嬉しくなる。
「湖の周辺は結構開発が進んでいて、場所によっては新しく生まれた湖は珍しいということで観光名所みたいになっていたりします」
「なるほどねぇ」
リゾート地みたいになっている感じか? よく見れば対岸にコテージみたいな建物も見えるし、その周辺が観光地化している感じなのかもしれない。
「釣りも場所によっては出来るので、ゆっくりしたい時にはお勧めです」
「釣りかぁ」
ラムの話を聞きながら湖を眺める。
家を追い出されてからゆっくり出来る時間もなかったし、しばらくはゆっくり過ごすのもありかもな。
「あっれ? ゴルドーやん! 今日もラムちゃんと一緒で本当に仲良しだなぁ、って知ら女の子いるじゃん!? 紹介してくれよ!」
「ゲハ。今は人を案内中だ。お前に構っている余裕はないんだ。別の時に来てくれ」
少しぼうっとこの先のことを考えようとしたところで、俺たちの後ろから見た目が派手な採掘者装備を身に着けた男が、ゴルドーを小馬鹿にするような発言をしながらこちらに近づいて来ていた。
見た目のせいで勘違いされているようだけど、俺は男です。




