何があったんだ?
ラムの前で先ほどの男が土下座をしているという、よくわからない状況に戸惑う。しかし、よく周囲を見てみればあまり驚いている様子は見られない。
大柄の男が小柄な女の子の前で土下座をしているという、おかしな状況にもかかわらず、周囲には俺と同じような反応を示している人はほぼいなかった。
これ、割と起きている光景なのか?
周囲の反応からこうなっているのが初めてではなさそうというのは読み取れたが、そこに近づいていいのかわからず周囲に居る人と同じように遠巻きに眺めていると、俺がこの場に戻って来たことに気づいたラムが声を掛けて来た。
「あ、ゼロさん」
「これはどういう状況?」
「えっと…これはですね……」
あまり詮索されたくなさそうなラムだったが、さすがにこの状況を無視することはできない。
土下座をしている男の方へ視線を向けると、こちらも俺が戻って来たことに気づいたようで顔を上げこちらを見上げていた。
「とりあえずゼロさんも戻って来たし、もう立ち上がってもいいよ兄さん」
「ああ」
「に、にいさん?」
この流れで出てくると思っていなかった単語が出てきたな。
今まで土下座をしていた男はギルド長がゴルドーと呼んでいたから、にいさんという名前ではないはず。そうなれば『兄さん』という言葉が一番可能性が高くなるんだが。
そう思い、目の前に居る2人を見比べる。
ラムはウサギのような耳が頭についているが、ゴルドーはそのような物はない。ガタイの良さ以外は普通の人間の様に見える。
しかし、兎人含め、獣人などの人種がどのように生まれるのかを詳しく知らないので、血が繋がっていても同じ特徴が発現しないという可能性もある。
「先ほどは済まなかった」
「え、あぁ。まあ、別に攻撃されたわけじゃないし、問題ないよ」
俺が居ない間にラムに何かを言われたのだろう、ゴルドーはそう言って頭を下げて来た。
明らかにラムとゴルドーの上下がはっきりしているな。
「私からもごめんなさい。助けてもらったのに兄さんが迷惑をかけて」
「迷惑ってほどじゃないから。それより、兄さんとは? あ、言いづらい事だったら言わなくても大丈夫」
2人の関係について聞いた後で、何かしら複雑な事情があるかもしれないと思い至り、最後に言葉を付け足す。
「一応兄妹という形になっている。まあ、血は繋がっていないが」
「私たち施設育ちで、そこで一緒に過ごしていたから、その関係でそう呼んでいる感じです」
「なるほど」
この世界は死亡率が結構高いからなぁ。技術が発展しているとはいえ、当たり前にモンスターが生息している世界だし、親が何らかの不慮の事故で亡くなってしまうというのも普通にある。それに俺と同じパターンも少なからずあるだろうからな。
「ゼロさん。本当にごめんなさい。兄さんは私のことになると暴走しやすいみたいで、今回のも多分それだと」
なるほどなぁ。さっきギルド長が言っていたのはこれか。要はシスコンね。しかも過保護タイプのシスコン。
まあ、ラムの見た目だと寄ってくる男は多いだろうし、昔から気が気じゃなかったって感じなんだろうなぁ。まだ関わって少しだがラムはあまり気が強い子じゃなさそうだし。
「まあ、妹が余程心配だったんでしょ。気持ちは何となく理解は出来るから」
今世でも前世でも年下の兄弟はいなかったけど、中の良い存在を守りたいという気持ちは理解できる。
それにゴルドーは俺がラムを助けた場面を配信で見ていなかったようだし、人伝で聞いただけでは俺がラムを助けたということを信じられなかったのだろう。
「そう言ってもらえると非常に助かる。それで自己紹介が前後してしまい申し訳ないが、俺はゴルドーだ。採掘者ランクは4だ」
「ああ、そうかまだ自己紹介まで行ってなかった。俺はゼロです。ランクはまあ、1ですね」
「え、ランク1なんですか?」
目の前でモンスターと戦っている場面を見ているラムからすると、どうして俺がランク1なのか意味が分からないだろうな。
結局、ギルド長とのやり取りの中でランクの更新はできなかったから1のままだ。そもそも、ランクアップの条件を満たしていない以上、ランクは上がるわけもないのだが。
ただ、今回のラム救出の件やその際の戦闘に関して、近いうちに詳しい話をする予定になっているので、その時に俺のランクがどうなるのか判断される。
なし崩しになってしまったが、ランク3以上でなければ入れないダンジョンの中に入ってしまったわけだ。しかも配信にその光景が映ってしまっている。その状態でランク1のままというわけにもいかないとギルド長から言われているので、おそらくランクは上がるんじゃないかと思っている。
「まあ、いろいろあってランク1のままというか、事情があって。多分その内わかるというか、話せると思う」
ダンジョンの崩落に巻き込まれて生きていたとか、4年もダンジョンの中で過ごしていたとか、この場で話してしまうと何かしらの問題というか混乱が起きる可能性もあるし、まだギルド長に詳しく話していない内容をこの場で話してしまうのはよくないだろう。
「そうなのか」
よくわからないながらも一応納得してくれた様子で、ありがたいことに2人はこれ以降、採掘者ランクについての話を振ってこなかった。
そうして俺とゴルドーとのやり取りは結果的に、ラムがこの場に入ったことで拗れることなく終わることが出来た。
「ゼロさんはこの後どうするんですか?」
「この後?」
この場はとりあえずお開き、という流れになったところでラムがそう聞いてきた。
「何も考えていなかったな」
そもそもここまでグニアスが変わっていると思っていなかったし、流れで適当な素材を売ってしばらくは宿生活でもしようと考えていた。
ただ、ここまでグニアスが変わってしまっていると、物価も変わってしまっている可能性もあるし、もともと立てていた予定を変更した方がよさそうではある。
特に今の町の中を見て周る必要はあるだろうから、これからどうするかを考えないといけないよな。
「あの、何も予定がないようでしたら、町の案内とかもできますよ。ゼロさんは最近のグニアスを知らなかったようですし」
「いいのか?」
それは願ったりかなったりだな。特に町中にある店とかも知っておきたいしありがたい提案だ。
そう思いながら確認のため、ラムの隣に立っているゴルドーに視線を向ける。
「いいんじゃないか? ゼロは悪いやつではないようだし、俺がとやかく言うつもりはないぞ」
「ならお願いしてもいいかな」
「わかりました。あ、兄さんはどうする?」
俺の答えにラムは嬉しそうに頷き、思い出したかのようにゴルドーに話を振った。
「俺はどちらでもいいが、ゼロがいいのであれば付いて行くぞ。俺からも紹介したいものはあるしな」
「それならゴルドーにもお願いしていいか?」
「ああ、なら付いて行こう」
ラムだけでなくゴルドーも一緒に今のグニアスを案内してくれるならありがたいことだ。1人の案内より2人で案内してもらえた方が、手に入る情報は間違いなく増えるからな。
そうして俺はギルドを出て、ラムたちにグニアスの町を案内してもらうことになった。




