確認
受付の奥から出て来た人物を見て、俺の中で懐かしさと安堵の感情が湧きたつ。
この瞬間まで知っているはずのグニアスのはずなのに、ほとんど俺の知っている存在が無い空間だった。そんな中で知っている存在が現れたというのは、本当にここがグニアスで間違いないのだという裏付けが出来、かつ安心できる情報なのだ。
「この採掘者カードを持ってきたのは誰だ?」
「俺です」
奥から出て来た少し険しい表情をしたギルド長がそう言いながら、それに返事をした俺の前に立った。
それから少しじっと俺のことを睨みつけて来たギルド長だったが、「信じられんが」と言うと裏で受け取ったのだろう、手元の俺の採掘者カードを再度確認した後、俺へ視線を移した。
「本当にゼロで間違いないか?」
「はい、お久しぶりです」
「……そうか」
俺の言葉に短くそう返してきたギルド長は何かを考えるように数秒ほど目を瞑った。
「そうだな。見る限り間違いはなさそうだが、裏で本人確認をする。付いてきなさい」
「え、あ。すみません。あの待たせている人が居るんですが、少し遅れることを話してきてもいいですか?」
受付の後に戻って来ると言った手前、ギルド長の指示とはいえ何も言わずにこの場から居なくなるのはよくないだろう。それに、場合によっては逃げているように見えてしまうかもしれない。
「それは誰だ?」
「えっと、あの入り口の近くに立っている大柄の男性です」
「ああ、ゴルドーか」
ギルドの入り口付近で俺のことを待っている男を示すと、ギルド長が男の名前を口に出した。
「俺の用は後でも大丈夫なんで、ギルド長の件を先に済ませて大丈夫です」
ギルド規模が大きくなり建物も広くなったとはいえ、受付前の広さは受付からの声が届かなくなるほど広いわけではない。そのため、俺とギルド長のやり取りも男には聞こえていたようで、断りを入れる前にそう言葉を投げかけて来た。
「すまない。それじゃあ行くぞ」
「はい」
そうして俺はギルド長に連れられてギルドの奥にある個室で話をすることになった。
個室に入ってからすぐ、本人確認のための聴取が始まった。
「すまないが、なりすましの可能性が否定できない。いくつか確認をするぞ」
「わかりました」
まあ、いきなり出てきて実は生きていましたなんて信じるような人がギルド長の座に居るわけもないよな。採掘者カードだって拾ってそれを使っている可能性だってあるわけだし。
それに行方不明になっている間にちょうど成長期も重なったことで見た目もかなり変わってしまっているからなぁ。ぱっと見で俺だと判断するのは難しいだろう。
「名前は既に名乗っていると思うがもう一度答えてくれると助かる。それと所属ギルドと採掘者ランクも頼む」
「名前はゼロ。所属はグニアスギルド。ランクは1でした」
「ありがとう。では次だ。このギルドで最後に受けた依頼はなんだ?」
「ロッソさんから受けたファーラットの巣の排除依頼です。ただ、依頼達成報告は出来ていません」
「なるほど」
俺の返答と、俺の情報が書かれていると思われる書類をギルド長は慎重に比較し確認していく。
「君が本当にゼロくんであればこれほど喜ばしいことはない。しかし、確実に君がゼロだと言う確証は私の中にまだない」
「そうですか」
そう簡単に俺が俺である証明することはできないようだ。そもそも家を追い出されて、どうにか辿り着いたギルドで短い間しか活動していなかったのだ。
しかも、何かあった際に使用される本人確認用の血液情報を取る前に居なくなったのだから、その確認方法も使えない。
「最後の質問だが、気を悪くしたら申し訳ない。ゼロ、君の本当の名前を教えてくれ」
そう来たか。確かにこの情報はギルドの書類には書かなかったはずだ。俺の本当の名前を知っているのはおそらく目の前に居るギルド長と、その時対応してくれたサラさんくらいだ。
「今はゼロと名乗っていますが、元の名前はレイトです」
俺の言葉を聞いてギルド長は緊張から解き放たれたように大きく息を吐いた。どうやら最後の質問に答えたことで俺が俺であると判断してくれたようだ。
「それを知っているのなら、確かに本人と断定していいだろう。しかし、そうか、……そうか。生きていたか」
「ええ。どうにか生きていました」
「よく生きて戻って来てくれた」
今まで硬い表情をしていたギルド長がそれを崩し、真底安堵した様子の表情をこちらに向けて来た。
俺の本人確認が済んだ後、いくつか情報更新のためのやり取りをした。
さすがに長い期間行方不明だったこともあり、ギルドでは死亡扱いされていたようだ。それを撤回するためにいくつか書類を書き、最後にもう一度採掘者カードと俺の魔力の紐づけが行われた。
「本来なら採掘者カードと君の魔力を照合すれば済んだ話だったんだが、このカードに登録されていた魔力が消失していた。何が原因なのかはわからないが、何らかの拍子に魔力を記録する場所が破損したのだろう」
「おそらく、地面の崩壊に巻き込まれた時かな」
「まあ、その可能性が一番高いだろうな」
オーさんに聞いた話によると、俺を見つけた時ほぼ死にかけ状態だったらしい。もしかしたらその時に魔力の登録が外れたのかもしれないし、落ちている中で何かにぶつかって壊れた可能性もある。
「しかし、数日でも絶望的だと言うのに4年だ。普通なら生きているはずがない。その人物が突然現れたら別人を疑う。さらにカードの紐づけも消失していたわけだ。いくら見た目に面影があったとしても、本人である証明が出来なかった」
「それはまあ、そうですね。……え、4年?」
嘘だろ。あれから4年も経っていたのか。というか、俺はどれだけダンジョンの中で過ごしていたんだよ。長すぎだろ。
もうそんなに長い時間見つからなかったら誰だって死んでいると判断するし、そんな中本人を名乗る存在が出てきたら、そりゃ別人が成り代わっていると思っても不思議じゃないよな。
「正確に言えば4年と14日だが。知らなかったのか」
「ダンジョンの中に居ると昼夜がないので時間感覚がマヒしてくるんですよ。しかし、4年かぁ。どおりでこんなに村の見た目が変わっているわけだ」
「ああ、グニアスの変わりようは他に比べると劇的だからな。久しぶりにグニアスに訪れ驚く者は多い」
「でしょうねぇ」
本当に元の村の光景が分からないほどに変化してしまっていたから、久しぶりに来たとなれば驚くのは当たり前のことだと思う。
「そうだ。この後ゴルドーと何か話があるのだろう?」
「あ、そうでした。まだ待っていますかね」
1時間とは言わないが30分は経過しているはずだ。さすがに待っていない可能性はある。
「まあ、ゴルドーなら待っているだろう。一部に関して少々やり過ぎな気はあるが、見た目に反して真面目な採掘者だからな」
「そうなんですか」
やっぱり見た目で損をしているタイプの人のようだ。とはいえ、待っているのなら少しでも早く受付前へ戻るべきだろう。
ギルド長と一緒にギルド奥の個室を出て受付前へ移動する。
受付を超える前にギルド長と別れ受付前へ戻ったところ、先ほど俺に声を掛けて来たゴルドーと呼ばれた男が、治療室から戻って来たラムの前で土下座をしている光景が飛び込んできた。
「ん? え、どういうこと?」
本当に理解できない光景に俺はそう言葉を漏らした。
どうしてそうなったのか理解できないんだが、俺が本人確認をしていた間に何があったんだ!?




