見た目と中身が一致するとは限らない
目の前に立っている大男が俺を見下ろし睨み付けてきている。
久しぶりに地上に戻って来て早々に面倒な人に絡まれたな、と思いつつもこうやって人と対峙することはダンジョンの中でも、ダンジョンの中に落ちる前にも経験がなかったので新鮮な気持ちだ。
「ラムリタを助けたのは俺で間違いないよ」
ここで嘘を言っても意味はない。ラムをここに運んだのは他の採掘者たちにも目撃されているし隠す理由もない。
「なるほど、……お前、女……か?」
未だに険しい顔つきで睨み付けてきている男だが、俺の顔を見て性別が判断できなかったのか、それとも完全に女だと思ったのか、若干戸惑いが混じった声色でそう質問をしてきた。
「いや、こんな見た目だけど男だよ」
「そ、そうか」
さすがに女性に対してこのような態度を取るつもりはないのか、目の前の男は俺の返事を聞いて安堵した様子を見せる。
「ラムリタを助けてくれたことには感謝する。聞くところによるとお前が居なかったら最悪の展開もあったらしいからな」
「そうだね」
すんなり感謝を伝えてくるってことは、いきなり目の前に現れたから俺が圧を掛けられたように感じただけで、案外そう意図はなかったのかもしれない。
「……だが!」
「ん?」
「その事実があったとしても! 俺はお前がラムリタの隣に立つことは認めない!」
「お、おぅ?」
見た目で損をしているタイプの人かと思っていたら、突然叫ぶようにそう宣言されたので非常に驚いた。
これはええと、どういうことだ? 認める云々の話の流れがよくわからない。というか、そもそも隣に立つとはどういうことなのか。
いや? そうかなるほど。目の前の男はラムに対して好意を持っている感じなのか? それで俺がラムの窮地を救ったことで危機感を持ったってことなのかな。
あくまで予想だし、ラムとこの男の関係が分からないから、これが正解なのかはわからない。
それにそう言うのはラムが決めるのであって、俺たちにそれを決める権限というか決定権はないと思うんだが。
「それに、その見た目で本当に下層のモンスターを倒したというのも疑問だ」
本当に目の前の男に比べれば俺の体は細身だ。細マッチョというにも無理がある体型だ。客観的に見れば男の言う通りモンスターを倒せるのか怪しい体はしていると思う。
「それはラムリタの配信? を見ればわかると思うよ」
とはいえ、倒したのは事実なのでラムの配信を確認すれば疑問は晴れると思う。
ただ、配信云々に関して俺はあまり詳しくないので、配信を終わらせた後の映像がどうなっているのかはわからない。おそらく残っているとは思うが、どういう仕組みで配信をしているのかを知らないので、絶対に残っているとは言えないのだ。
「今日の配信動画は今のところ非公開になっている」
「ありゃ、そうなのか」
それじゃあ、今は確認できないか。
配信を見ていた人に聞けばいい、とも思うがここまでの反応を見る限り、この男は実際に自分で見ていないと信じなさそうではあるんだよな。
「ここで俺と闘えと俺が言ってお前が応じれば、お前の実力を測ることは出来る。しかし、それは常識が無さすぎる」
あれ? 流れ的に強引に戦いを仕掛けてくるものだと思っていたんだけど、意外と理性的な人なのか? 初手目の前に立って圧をかけてくる段階で、常識があるのかは微妙な気はするけど。
「お前の名前と採掘者のランクを教えてくれないか?」
「え、あー」
採掘者のランクはダンジョンの中で過ごしていた以上、ランク1のままだ。さらに言えばずっと登録情報の更新もしていないし、名前はともかくその辺は一度更新してから教えたほうが安心かな。居なくなり方が突然だったし、登録者情報が消えている可能性もあるわけで。
「教えるのはいいんだけど、その前に一回、受付に行っても大丈夫です?」
「あ? まあ、逃げなければいいぞ。俺はお前がどんな奴なのかを知りたいだけだからな」
なんというか、初手の関わり方には問題があると思うけど、見た目の圧がすごいだけで割と話が分かるタイプの人っぽいな。
「それじゃあ、ちょっと行ってくる」
ラムたちはまだ治療室から出てくる様子が無いので、断りを入れてからギルドの受付に移動する。
男に絡まれたからなのか、それともラムを俺が助けたことが広まっているのか、受付に向かっている間、周囲から視線が俺に集まっているのを感じた。
「すいません。採掘者登録の更新をしたいんですが」
ちょうどよく受付待ちをしている採掘者が居なかったため、そのまま受付に立っていた女性に話かける。
パッと見た感じ俺が知っている受付の人は見られなかった。
俺のことを知っている人だったら楽だったんだろうけど、時間帯もあるだろうし、あれから時間も経っているから昇進したり別のところへ移ったりしているのかもしれないな。
「更新……ですか?」
「長期間ギルドを利用していなかったので、登録状態がどうなっているのか確認したくて」
「なるほど、そう言うことですか。でしたら、採掘者カードを提出していただけたら確認できますよ」
「あ、それじゃあお願いします」
登録の更新みたいなシステムはないのか。まあ、ランクの更新タイミングじゃないとさすがにしないか。間が空いたからってその都度更新していたら手間でしかないし、顔写真が付いているわけでもないからなぁ。
「ありがとうございます。えっと、ゼロさん、で間違いないですか?」
「はい」
採掘者カードを受け取り名前の確認の後、受付の女性は登録者情報の載っている書類を確認するために受付の奥にある資料室と思われる場所へ向かっていった。
受付でその女性が戻って来るのを待っているとギルドの奥から「え!?」という何かに驚いた声が聞こえ、すぐにギルドの奥から先ほど対応してくれた受付の女性と俺の知っているギルド職員が姿を現した。




