こんなんだったっけ?
ダンジョンの入り口から外へ出る。
周囲には幾人か採掘者と思われる人間が待機しており、ダンジョンの中から出て来た俺たちを見て、その中に居た1人の女性がこちらに駆け寄って来た。
「ラムリタさん無事でしたか!」
駆け寄って来た人物の服装の中にギルド関係者が身に着けている装飾品があった。
最初にかけて来た言葉からしてラムのことを救助するためにこの場に来ていた、もしくはラムの配信を見たうえで戻って来るのを待っていたギルド職員なのだろう。
「ご迷惑おかけしました」
駆けよって来た人物に合わせてラムを一度地面に降ろす。
「救難信号が来たときはどうなることかと」
「ゼロさんが近くに居なかったら死んでいました。本当に」
俺がサイクロプスを殴った段階で間一髪だったからなぁ。
もう少し、数瞬でも見つけるのが遅かったら救助は間に合わなかっただろう。本当によかった。
いくつか状況の聴取や救助の協力の感謝をされた後、その場でギルド職員により、挫いたラムの足首の応急処置が行われた。
話しを聞いた限り、俺たちがそろそろ戻って来ることを見越して、この場で応急処置をするために待機していたらしい。
しかし、応急処置をしたとはいえ、そのまま歩かせるわけにはいかないので、ここまで運んだように俺がラムを抱えてギルドの救護所へ運ぶことになった。
ダンジョンの出入り口からグニアスのギルドへ向かっている際、あることに気づいた。
この場でラムがダンジョンから戻って来るのを待っていたということは、およそ出てくるタイミングが分かっていたということだ。そしてラムはすでに閉じてはいるが、先ほどまで配信していた。
そうなると道中、外れなく道を示していたコメントは前からラムの配信を見ていた視聴者ではなく、ギルド関係者によるものだった可能性は十分あり得る。
「一つ聞いていいですか」
「え、あはい。大丈夫ですよ」
ラムを抱えてギルドの治療室へ向かう途中、ギルド職員の女性に質問をしてみる。
「もしかして先ほどまでしていたラムの配信で、ギルド関係者がコメントをしていたりしましたか?」
「あ、ハイ。私ではないですが、ある程度地理を把握している者が都度指示を出していました」
「やっぱりそうでしたか」
道理で間違いなく進んで来られたわけだ。
「途中、サイクロプスが進路上に居た時は焦りましたが、貴方のおかげでラムリタさんが無事地上へ戻ってくることが出来ました。ありがとうございます」
「いえ、まあ。助けられてよかったです」
本人からもお礼を言われているし、何度も感謝されるとむず痒くなる。
どうしたものかと思ったところで、グニアスの村の周囲を囲っている柵が見えて来た。
「あれ?」
しかし、その柵を見て違和感を覚え、さらにその先にある建物を見て俺の中にあったグニアスの景色と相違がありすぎたことで、頭の中に疑問譜が大量に浮かんだ。
「どうかしましたか?」
目の前の光景が理解できず首を傾げていた俺に気づいたギルド職員の女性が声を掛けてくる。
視界に入って来るグニアスの景色は、多くの家が並び、道は石畳で舗装され、所々店と思われる看板が確認できた。
おかしい。俺が知っているグニアスの村はあまり建物が無く、周囲に住んでいる農家は存在すれど、村人と言える人はそう多くなかったはず。店だって必要最低限の数しかなかった。
道だって人が長らく通り続けたことで硬くなった地面が道の様になっていただけで、舗装されている場所なんて1か所もなかったはずだ。
見れば見るほど知らない光景に、実は目の前の場所はグニアスではないのではと思い始める。
「あの、ここって何て場所ですか?」
「え? 先ほど言った通りグニアスですが」
俺の質問にギルド職員の女性と抱えているラムは意味が分からないと言った表情を浮かべていた。
「いや、俺が知っているグニアスはもっとさびれた村というか、こんなに栄えている記憶はないんですが」
もしかしなくても、俺がダンジョンの中で過ごしている間に何かあってこうなったのか?
いや、思い出してみれば俺がダンジョンの中に居た理由は地割れに呑まれたからだし、グニアスの村も同じように地割れの被害を受けていた可能性は十分にあり得る。その後の流れで何かがあってここまで綺麗に整えたということなのかもしれない。
「はい?」
「あーなるほど。グニアスが発展したのは最近ですし、その前の光景しか知らない方は驚きますよね」
「やっぱりそうなんですね」
ギルド職員の女性の言葉を聞いて予想が当たったことを理解した。そして発展した、ということは見える範囲以外も相当変わっている感じか。こうなると俺が知っている場所は残っていないかもしれないなぁ。
そんなことを考えながらグニアスの村、もとい町の中に入る。
外から見た通り、グニアスの中は俺が知っている景色は残っておらず、少し寂しさを感じながら町の中を進んで行く。
そしてしばらく歩いたところでギルドに到着した。
「場所は変わっていないっぽい…か?」
「ギルドの場所はそうですね。変わっていないと思います」
ギルドの建物は完全に俺が知らない見た目に変わっていたが、建っている場所は同じだったことに安心する。
「戻りました。救護所、使いますね!」
「おう。よく戻った、使え!」
ギルドに入って早々女性職員から放たれた言葉に、ギルドの奥から大声で返事が聞こえて来た。
「それでは、こちらにお願いします」
俺の全く知らない新しいギルドの光景に戸惑いながら、女性職員に続きギルドの奥へ進む。
そして先に進むとしっかりした作りの治療室と言える空間があり、そこに在った寝台にラムを下ろした。
「足はあちらで処置したもので大丈夫だと思いますが、他の箇所も怪我をしていないか診察しますね」
「あ、お願いします」
女性職員はそう言うと俺へ視線を向けてくる。
診察ということはおそらく服を脱ぐことになるだろうし、さすがに男の俺がこの場に居続けるのはよくない。おそらく視線も出て行って欲しいということだろうしね。
「俺は外に出ておきますね」
「はい。ありがとうございます」
そう断りを入れてから診察の邪魔にならないよう治療室の外に出て、ギルドの待合所まで戻って来た。
どの程度時間がかかるかわからないが、ラムたちが治療室から出てくるまでこの場で待っていよう。
そう考えたところで俺の前に大柄の男が視界を塞いで来た。
「おう、お前」
理由はわからないが、声の感じから俺に話しかけて来ていることはわかったので、視線を合わせるようにその男の顔を見上げる。
俺も背は低いわけではないと思うが、目の前の男は俺よりも20センチは背が高そうだ。しかもガタイもいい。
正直、目の前に立たれただけでもかなりの圧を感じる。
「えっと、何でしょう?」
「お前がラムリタを助けたって本当か?」
その男の怪訝そうな、同時に敵意を持っているような声色に、面倒なことが起きそうな予感を覚え、内心ため息を吐きながらこの男をどう対応するか、面に出さないよう注意し思考を巡らせた。




