地上へ
勢いよく向かってきていたヘルハウンドへ武器として使っている木の棒を振るい迎撃する。
ヘルハウンドは自分よりも大きなモンスターではあるが、この程度なら一撃で倒すことは可能だ。
サクッとほぼ同時に襲い掛かって来たヘルハウンドを倒し、ゆっくり近づいて来ていたサイクロプスを先ほどと同じように滅多打ちにして倒した。
「さっきも思ったけど、サイクロプスは見た目の割に頑丈だなぁ」
巨体とはいえ人間と同じ形をしているモンスターだ。弱点も人間に似通っているはずなのに、そこを攻撃してもダメージが通りが悪い。
表皮がぶ厚く超筋肉質かつ骨太という、ただ攻撃力が高いだけのモンスターではないところがサイクロプスの頑丈さに繋がっているのだろう。
とはいえ、今の俺がこの程度のモンスターに手間取ることはない。
「オーさんが修行とか言って連れて来た小型のドラゴンの方がまだ強いな」
当然だけど、ドラゴンはモンスターの中で最強種と言われる存在だ。小型であってもそれは変わらない。
サイクロプスたちの体から魔石を回収してから周囲の気配を探り、少なくとも俺たちの存在に気づいているモンスターが居ないことを確認した後、ラムのところへ戻る。
「それじゃあ、ちょうど先に続く道も見つけたから先に進もうか」
「あ、はい。見つかったんですね」
サイクロプスを倒す際にこれまで通って来た場所では見なかった道が視界に入った。おそらくあれが上の階層へ繋がる道なのだろう。
偶然の可能性もあるが、視聴者のコメントに従ったのは間違いではなかったようだ。
〈やっぱ強くね?〉
〈ヘルハウンドの群れを瞬殺してサイクロプスも瞬殺ってどういうことなのか〉
〈これ、道知らないとか嘘なのでは〉
〈こんなに強いやつだったら有名になっていそうなのに、誰か知っている奴いないのか〉
〈そもそもこいつ名乗ってないからな。ラムちには名乗らせたのに〉
「抱えるね」と断りを入れながらラムを抱え上げ、その際にスマホの画面に流れていたコメントが目に入った。
「ごめん。忘れてた」
「え、何がですか?」
「ラムに名乗らせておいて自分は名乗っていなかった。申し訳ない」
さすがに名乗らせておいて自分だけ名乗らないというのはよくないだろう。
「それは……私も聞きませんでしたし、謝るほどではないかと」
「いやいや、聞いておいてこっちは言わないって普通に駄目でしょ。ってことで、俺の名前はゼロね。よろしく」
「あ、はい。ゼロさんですね。よろしくお願いします」
「そんな、かっちりしなくてもいいよ」
状況的にフランクに対応するのが難しいとは思うが、ずっと硬い対応をされてもこっちが落ち着かない。
俺の言葉にラムがどう返したらいいのかわからないといった表情をしていたため、言葉を付け足しておく。
「まあ、無理にとは言わないけどね」
「はい」
ラムが申し訳なさそうに短く返事をしてきた。
ちょっとあれだったか。いきなり距離を詰め過ぎたっぽいな。困らせたいわけではないし、これ以上突かないようにしておこう。
ラムと出会った階層から1つ階層を上り、新たな階層に到達した。
先ほどまでは荒野と草原が入り混じった少し広い迷宮と言った感じだったが、この階層は草原と林がメインの階層になっているようだ。
「この階層はわかる?」
「ごめんなさい。階層の見た目的に多分浅いところまでなら来たことはあると思うんですけど、この辺りはちょっとわからないです」
「なるほど」
この階層には到達しているのか。それならラムが知っている場所まで進むことが出来れば帰るのは簡単になると。
「それじゃあ、今回も視聴者に聞いてみようか。さっきは合っていたわけだしね」
「あ、はい」
先ほどと同じように成功するとは限らないが。まあ視聴者的にただ地上に戻るだけの映像を見せられるよりは、少しでもこの状況に関われる理由があった方が楽しめるだろう。
〈なんなんこいつ。ラムちゃんのチャンネルなのになんでお前が指示出すんだよ〉
〈とりあえず直進かな〉
〈なんでこんな奴に従うのか〉
〈さっさと地上に戻ってくれた方が、ラムちと接触している時間が減るんだよ。反発している奴らはそれに気づけ〉
〈それに、とりあえずこいつが居ればラムちが安全に地上に戻れるわけだし〉
俺に対する攻撃的なコメントが多いことにラムが申し訳ないと言った表情をしているが、とりあえず進む方向を示してくれているコメントに従って直進することにした。
「ゼロさんは……」
「ん?」
視聴者に地上への道を尋ねながら着実に地上へ向かってダンジョンの中を進んでいる中、ラムが俺に対して質問をしてきた。
「所属しているギルドはどこなんですか?」
「うーん。一応グニアスかな」
「一応?」
結構長い間、地上に戻らずにダンジョンの中にいたから俺の採掘者登録がどういう扱いになっているかわからない。基本的に長期間行方不明になっていると死亡扱いになることが多いので、登録が消されている可能性があるのだ。
「どれくらいかはわからないけど、長いことギルドに行っていないからね」
「どれくらいかわからない?」
「うん」
ダンジョンの中には昼夜というものが存在しない。そのため長期間ダンジョンの中に居ると時間感覚が分からなくなるし、何日経っているかもわからない。
なので、長期間ダンジョンの中に居たことは理解しているのだが、その期間がどのくらいなのかが分からないのだ。
「それは」
「まあ、詳しい部分は地上に戻ってから話すよ。その段階でまだラムさんが知りたかったら、だけど」
「わかりました。あとで教えてください」
俺の中でもどう説明したほうがいいのか纏まっていないし、おそらく事情を知らない人が聞いたとして信じてもらうのは難しいと思ったため、ラムの質問は一旦保留という形にする。
そもそも採掘者になりたての子供が、地割れに巻き込まれてダンジョンの最下層付近まで落ちたのにもかかわらず生き残って、今になってから地上に戻って来た、なんて普通は嘘か作り話だと判断されても不思議ではないのだ。
「あ、ゼロさん。ここからなら私が案内できます」
どうやらラムが知っている、案内ができる場所まで戻って来れたようだ。
「お、それならお願いするね」
「はい。まずはこっちですね」
そこからラムの道案内に従い、最短ルートで地上へ向かい、俺とラムは無事地上へ戻ることが出来たのだった。




