配…信……?
ラムを抱えた状態でダンジョンの中を進む。
俺がこの階層に到達した場所からなるべく離れるように探索範囲を広げていく。
「下の回廊へ続く場所から離れた位置に上層に繋がる道があると思うんだよな」
「そ、そうですね」
抱えられているからだろうが、ラムが気まずそうに言葉を返してくる。
ずっと抱えたままだとラムの体にも負担がかかる。出来れば早く上層に向かいたいところだが、今のところそれらしき道は見えていない。
「あ!」
「なにかあった?」
周囲を見渡し道を探していたところで突然ラムが声を上げた。
何かを見つけたのかと思い、ラムの顔を覗き込むと焦った表情をしており、どうやらそう言うわけではなさそうだった。
「そうだった! 私、今配信中で!」
「……はいしん?」
はいしんとは? すぐに該当する単語が思い付かず首を傾げる。
はいしん? 背信……? …………配信? ん?
え、まさかあの配信か? いや確かに配信の後に中ってつくのはそれくらいしかないよな。
もうほとんど霞みがかった記憶の中にある知識から、状況に一致する単語が1つ浮かび上がった。
もともとこの世界の技術力は高い。都市部では俺がまだ村で生活していた時からそう言うことをしている人がいるとは薄っすら聞いていた。
ただ、ダンジョンの中で配信をするというのは聞いたことがない。
「ごめんなさい。本当なら先に許可を取るか、配信を終わらせておくべきだったのに」
「へぇ」
多分、許可を取っていない相手を勝手に配信上に映してはいけない、みたいなルールが存在しているのだろう。
「まあ、いいんじゃない。態とってわけじゃないんでしょ?」
「そうですけど……」
「さっきのは状況が状況だったし、そういうのが頭から抜けちゃったのは仕方ないよ」
直前まで生死の瀬戸際に居たわけだし、そこまで気を配れなくなっていても不思議ではない。
むしろ今気づいてちゃんとそれを言ってくれたのだから、ラムはしっかりしている方だろう。
「そう言ってくれると助かります」
「というか、配信をしているってことは地上から見ている人がいるってことだよね?」
配信中であれば視聴者が居るわけだし、ラムの見た目ならそれを目的に見ている視聴者は多くても不思議ではない。
俺も助けた手前あまり気にしないようにしていたが、ラムの見た目はかなりかわいい。白く大きいうさ耳に同じ色の長い髪。さらに大きな瞳と小柄な体が庇護欲的なものを掻き立てているように感じる。
とはいえ、怪我人として運んでいる以上、邪な気持ちは抱かないよう気を付けているが。
「そう、ですね?」
「今見ている人の中にここからの帰り道が分かる人っていないのかな」
視聴者層がどんな感じなのかにもよると思うが、1人くらいはこの階層の知識がある人が居ても不思議ではない。
「どう…なんでしょう。私のチャンネルはあまり同接強いわけではないので」
そう言いながらラムはスマホらしきものを取り出し、画面に映されている物を確認していた。
〈ラムちを抱きかかえて何言ってんだこいつ〉
〈下層まで来るとマップ知識ある人自体減るから難しいんじゃね〉
〈そもダンジョンに入らないから配信を見ているわけで〉
〈ラムちゃん目的で見ている奴が多いのにそんな知識有るわけなくて草〉
〈そのまま直進して少ししたところで左だったような。あんま記憶無いが〉
画面に表示されている小さな文字を追っていくと、それっぽいコメントがあった。
「直進後に左ってコメントあったからそれに従ってみようか」
「え?」
「まあ、どこまで信用できるかわからないけど、どのみち適当に進んで行くつもりだったから、一回それに従ってみるのもいいでしょ」
嘘のコメントの可能性はあるが、一回コメントに従って移動してみることにした。
コメントに従いそのまま直進してからしばらくして左に進み始める。
特に何か問題が起こるようなこともなく、ダンジョンの中を進んでいたが左に進み始めて5分もしたところで、少し先にモンスターの姿が確認できた。
「サイクロプスとヘルハウンドか」
「ひえ」
先ほど自分を殺そうとしていたモンスターがまた現れたことでラムが小さく悲鳴を上げる。
サイクロプスは先ほど倒した個体ほど大きくはなさそうだが、同じ場所にヘルハウンドが5体いるのが少し厄介だな。
ヘルハウンドは一般的な車大の巨大な犬型モンスターだ。単体で遭遇することは稀で今回の様に複数体で同時に遭遇することが多い。
ダンジョンの中に生息しているモンスターは種族が違っても食い合いをしない。縄張りの取り合いによる小競り合いのようなことはあっても、互いを餌と認識することはなく、時には別種族であっても同じ場所で生息していることがある。
今回のサイクロプスとヘルハウンドはこのパターンだろう。
「あー、もう見つかっているな」
「逃げないと」
俺たちが認識するよりも前にサイクロプスたちは俺たちの存在に気づいていたようで、ヘルハウンドたちがすでにこちらに向かって走り出していた。
「さすがに抱えたままだと戦い難いから、ちょっとここで待っていて」
「あ、はい」
俺はそう言ってラムをゆっくり地面に降ろし、腰に付けていた武器を手に取る。
すでに見つかり先手を取られている。戦うにしてもラムから距離を取った方がいいと判断し、俺は向かってきているヘルハウンドたちに向かって一気に距離を詰めた。




