迷子2人
ふと思い立って地上に戻ろうと長く過ごしていた場所を離れ、上層を目指してダンジョンの中を移動していたところ、偶然サイクロプスに襲われていた少女を発見したため助けに入った。
俺が見つけた時にはすでにサイクロプスが攻撃モーションに移っており、間に合うのか微妙なところだったのだが、寸でのところで助けられたようで安堵した。
久ぶりに見た人間が目の前で殺されるところなんて見たくはないからな。
というか、普通の人間かと思ったら頭の上に白い長耳が生えているし、獣人ぽい。見るのは初めてだ。
それから襲い掛かっていたサイクロプスも討伐し、体内にあった魔石を回収したところで、少女の様子を見に行くと何故か突然お姉さま呼びをされて困惑した。
おそらく、サイクロプスに襲われたことで錯乱した結果だろうと思うが、残念ながら俺は女性ではない。
その点を訂正したところ少女の動きが止まってしまった。
自覚はあるが、正直俺の見た目はかなり女っぽい。家を追い出された当時はまだ子供だったから中性的な存在として捉えられる範囲だったが、そこからさらに成長した結果、顔立ちは完全に女性っぽくなった。
さすがに体の方はそんなこともないが食べても太くならなかった上に、筋肉も見てわかるほどつかなかったから、ダンジョンの中で生活するなかで適当に作った服では体型を判別するのは難しかったのだろう。
「ごめんなさい。でも……」
「これね。すっごい女顔ってだけで、ほら手でわかると思うけど男だよ」
「本当……ですね」
少女にわかり易いよう昔に比べてごつくなった手を見せる。
少女は見るだけではなく直接手に触れてきたが、その見た目と感触から俺が男であることを理解したようだ。
「しかし、足を怪我しているんだっけ。どうするかな」
俺は地上に行きたいわけで、であればこの少女を連れて地上まで登っていけばいいか。
いや、その前にこの少女がどうしたいのか聞いてから動くべきだろうな。
「君、ええと、名前を聞いてもいいかな」
「あ、私はラムリタって言います。ちょっと呼びにくいと思うので、ラムでもリタでも好きに呼んでもらって大丈夫です」
確かにラムリタだと少し口にし難い。呼ぶとすれば他の人から呼ばれ慣れている方がいいだろう。
「ラムリタさんね。よく呼ばれる方ってどっち?」
「ラムが多いと思います」
「それじゃあ、ラムさんにしよう」
初対面の女性にこんなぐいぐい行く接し方はよくない気がするが、長いこと人と接していなかったせいで、正直あまり加減が分からない。
「それでラムさん。これから俺は地上に行こうと思っているんだけど、ラムさんはどうする? 一緒に行くなら俺が抱えて行こうと思うんだけど」
怪我をしている以上、地上に戻るのは当たり前だと思うが、別の場所に仲間がいるかもしれないので、確認はしっかりする。
「え、あ。そ、そうですね。え、抱えて?」
「うん。足を挫いたって言っていたでしょ。その状態で歩かせるのは駄目だからさ」
捻挫を馬鹿にしてはいけない。無理に動けば状態を悪化させるし、最悪癖になる可能性もある。このまま負担を掛けずに地上へ行けるならそれに越したことはない。
「あ、ああ。そうでした。出来ればそうしていただけると助かります」
それまで少し興奮した様子だったラムだが、俺がその理由を言った後、少ししゅんとした表情になった。
正直どうしてそんな表情になったのかわからないが、とりあえずラムの許可は取れたので、地面にへたり込んだままのラムを抱え上げる。
「わわっ!?」
「あ、ごめん。言ってから抱えるべきだった」
何の言葉もなくいきなりラムを抱えてしまったことで、ラムが驚きの声を上げた。
「い、いえ、大丈夫です。あ、顔近い」
「それならよかった」
さて、それじゃあ地上に向かうことにしよう。……と言いたいところなんだが、残念ながら俺はここから地上に戻るためのルートを知らない。
ダンジョンの中に入ったのだって地上の崩落に巻き込まれたからであり、正規のルートでダンジョンの中に入ったわけでもなければ、ダンジョンの中を通ってきたわけでもない。
ある意味ここでラムに会えたのは、俺にとっても都合がよかったというわけだ。
「それで、ちょっと申し訳ないんだけど、ここから上の階層に向かう道を教えてくれると助かるんだけど」
「え? あ、えっとぉ」
俺の問いにラムは気まずそうな表情を浮かべた。
ん? あれ、何その反応。もしかしてラムも分からないとか、そういうことだったりするのか?
「もしかして、わからない?」
「あの、転移トラップを踏んでここに飛ばされて、道とかは全く分からないんです」
「まじかー」
道が分かれば少し楽が出来ると思ったんだけど、そう簡単にはいかないか。まあ、なら地道に上に続く道を探していけばいい。
ここまで登って来たのも道を探しつつ来たわけだし地上まで、いや、ラムが分かるところまで登って行けばいいだけだ。
「まあ、わからないなら道を探しながら行けばいいか」
「力になれなくてごめんなさい」
「俺もわからないし、謝る必要はないよ」
当初の目論見は外れたが、性質のお供が付いたと思えば悪くない。1人で地上を目指すよりも話し相手が居るだけで、気持ちは大分違う。
「それじゃあ、迷子2人で一緒に地上を目指そうか」
目的地までの道が分からなければそれは迷子。俺もラムも地上までの道が分からないのだから迷子である。
「え、あ。確かに迷子、ですね」
俺の迷子発言が少し面白かったのか、ラムが少し笑う。
そうして俺とラムは地上を目指して上の層へ続くルートを探すためにダンジョンの中を彷徨うことになった。




