第7話 メイド、ミレイユの想い
よろしくお願いします
トルム村での一件が屋敷に伝わると、当然のように大騒ぎとなった。
「レイン様が、村の疫病を治療されただと……!? しかも大規模浄化術式を単独で……」
父バロウズは、報告書を手にしたまま、しばし絶句していた。三男として気楽に育てるつもりが、いつの間にやら、王都の大魔術師にも匹敵するような規格外の存在に成長していたのだから、無理もない。
「あの子は、いったい……」
そんな中、幼い頃からレインの世話をしてきたメイドのミレイユは、複雑な思いを抱えていた。
「レイン様……最近、本当にお変わりになられましたね」
夕食後、屋敷の庭でくつろぐレインに、ミレイユは静かに声をかけた。
「え? そう、かな」
「はい。昔から規格外な方でしたけれど……最近は、何と言うか……とても堂々とされているように見えます。以前は、目立つことを避けていらっしゃったのに」
レインは苦笑した。図星だったからだ。
「……昔の僕は、力を持つことが怖かったんだ。目立てば、それだけ……失うものも増える気がして」
「今は、違うのですか?」
「うん。今は……この力で、誰かを助けられるなら、それでいいって思えるようになった。トルム村のみんなの笑顔を見て、そう思ったんだ」
ミレイユは、レインの横顔を見つめながら、ふと微笑んだ。
「レイン様は、本当にお優しい方ですね。……その優しさに、いつか気づく方が、きっとたくさん現れますよ」
「ミレイユ?」
「いえ、なんでもございません。……ただ、これからも、そのお優しさを忘れないでくださいませ。私は、ずっと傍でお仕えしておりますから」
ミレイユは深々と一礼すると、静かにその場を後にした。その頬が、夕焼けのせいだけではなく、わずかに赤く染まっていたことに、レインは気づいていなかった。
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その夜、レインは自室の窓から夜空を見上げていた。
(トルム村の防壁強化計画、順調に進んでいるみたいだ。あの調子なら、来年には近隣の村とも協力体制が組めるかもしれない)
内政という新たな目標が、レインの中で静かに芽生え始めていた。前世で支配していた広大な領土とは比べ物にならない、小さな辺境の村。だが、そこに住む一人一人の顔が見える距離感が、レインにとっては何より貴重なものに感じられた。
(それに……あのトルム村を襲った群れ、あれは本当に自然発生だったのか?)
浄化した洞穴の奥で、レインはかすかに、何者かの魔力の残滓を感じ取っていた。それは、前世で見慣れた——魔族特有の、禍々しい気配だった。
(ゾルアーク……いや、まだ確証はない。だが、警戒は怠らないようにしよう)
平穏なスローライフを望みながらも、レインの人生には、着実に大きな波が近づきつつあった。だが今はまだ、その全貌を知る由もない。
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