第4話 Dランク昇格試験
よろしくお願いします
オーガ討伐の一件は、レインの意向を無視してあっという間にギルド中の噂となった。
「聞いたか、アルダーシュ家の三男坊。素手でオーガを叩き潰したらしいぜ」
「いやいや誇張だろ、新人だぞ?」
「本当だって、ガレンが興奮して吹聴して回ってる」
そんな声を背中に浴びながら、レインはギルドの受付カウンターの前で肩を縮めていた。
「レインさん、規格外の魔力量と実戦報告を鑑みまして、通常の手順を省略し、本日Dランク昇格試験を受けていただきます」
受付嬢の言葉に、レインは思わず声を上げた。
「え、Fランク登録したばかりなのに、いきなりDですか!?」
「本来はE、Dと段階を踏むのですが……正直、今のレインさんにEランクの試験を受けていただいても、無駄に終わるかと」
苦笑いする受付嬢に、レインは反論の言葉を失った。
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Dランク昇格試験の内容は、ギルド指定の「模擬戦場」で、現役Cランク冒険者と一対一の模擬戦を行うというものだった。試験官として現れたのは、褐色の肌に鋭い目つきの女剣士——Cランク冒険者のシャナ・ドゥヴァルだった。
「噂の新人か。悪いけど、私は容赦しないよ」
「よ、よろしくお願いします」
レインは丁寧に頭を下げた。(今度こそ、加減を間違えないようにしないと)
試験開始の合図と共に、シャナは踏み込んだ。速い。前世の記憶を持つレインから見ても、彼女の剣速は確かな鍛錬に裏打ちされたものだった。
(この速度なら、七割の力でも十分だ)
レインは木剣でシャナの斬撃を受け流しながら、慎重に力加減を探る。シャナの猛攻を捌き続けること十数合——
「くっ……!」
シャナの息が上がり始めた。対するレインは汗一つかいていない。
(このまま防戦一方じゃ、埒が明かないか。少しだけ、攻めてみよう)
レインは一歩踏み込み、シャナの木剣を軽く弾いた。それだけで、シャナの体勢が大きく崩れる。
「なっ……!?」
体勢を立て直す間もなく、レインの木剣がシャナの喉元でぴたりと止まった。
「……そこまで!」
試験官の声が響いた。会場を包む沈黙。シャナは荒い息をつきながら、呆然とレインを見つめていた。
「嘘でしょ……私、Cランクになって三年よ……。それを、新人が、汗一つかかずに……」
「あ、あの、シャナさん、実力が拮抗していたので、たまたま……」
「たまたまで、この差が出るわけないでしょうが!」
シャナが叫び、周囲の見学者からもどよめきが起こった。
「合格です、というより、正直Dランクでは物足りないレベルかと……。ですが規定上、いきなりCランクにはできませんので、まずはDランクとして登録させていただきます」
受付嬢の言葉に、レインはがっくりと肩を落とした。
(また、目立ってしまった……)
しかし帰り道、ふとレインの脳裏に、幼い頃屋敷の使用人たちが向けてくれた、あの温かい眼差しが蘇った。
(でも……こうして誰かに頼りにされるのは、悪くない、のかもしれないな)
前世では、力を示せば示すほど、恐怖と畏怖しか返ってこなかった。だが今世では違う。称賛と、感謝と、時には呆れ混じりの笑顔が返ってくる。それがレインにとって、思いのほか心地よいものだと気づき始めていた。
よろしくお願いします




