第2話 隠しきれない才能
よろしくお願いします
10歳になったレインは、屋敷の剣術指南役であるグレイブ老人から、剣の手ほどきを受けていた。
「レイン様、まずは素振りから……って、なぜもう型が完璧なのですか!?」
グレイブは目を疑った。今日が初めての稽古だというのに、レインの剣筋には一切の無駄がない。むしろ、自分よりも遥かに洗練されている。
(これは……三十年、剣一筋の儂よりも上ではないか?)
「爺や、どうしたの? 教えてくれないの?」
小首を傾げるレインに、グレイブは震える声で答えた。
「い、いえ……レイン様、失礼ながら、どちらでこの剣技を学ばれたのですか」
「え? どこでも……なんとなく、こうかなって」
(体が覚えている。前世で……何百年もの間、培った技だ)
レインは内心で冷や汗をかいていた。「隠す」という決意とは裏腹に、体は自然と最適な動きを再現してしまう。これは意識的に制御するのが、驚くほど難しかった。
その日以降、屋敷では「アルダーシュ家の三男は、剣の天才らしい」という噂が、じわじわと広がり始めていた。
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同じ頃、屋敷には来客があった。隣領の子爵家の三男、ドミトリ・ヴァンクレイフである。歳はレインの二つ上、13歳。
「ふん、噂の田舎の天才様とやらにご挨拶といこうか」
見下したような態度でレインの前に現れたドミトリは、鼻を鳴らした。
「僕は幼い頃から王都で名門の剣術指南を受けてきた。田舎の自己流剣術など、児戯に等しいだろうな」
「そう……ですか」
レインは特に気にする様子もなく、淡々と応じた。目立ちたくない一心で、ドミトリの挑発をやり過ごそうとしたのだ。
だが、ドミトリはそれを「怯え」と受け取ったらしい。
「怖くて何も言えないか。ならば実力で分からせてやろう。模擬戦だ、受けろ」
周囲に集まった使用人たちが、はらはらと成り行きを見守る中、レインは仕方なく木剣を手に取った。
(手加減、手加減……絶対に本気を出すな)
自分に言い聞かせながら、レインは構えた。
対するドミトリは自信満々に踏み込んでくる。それなりに鍛錬を積んだ動きではあった——が、ヴァルガイムの三百年の戦歴から見れば、赤子の動きも同然だった。
レインは最小限の動きで、ドミトリの木剣を弾いた。パン、という乾いた音が響き、ドミトリの木剣が宙を舞う。
「なっ……!?」
会場は静まり返った。誰の目にも、レインが一切本気を出していないことが分かってしまったのだ。
「な、なぜだ……なぜこんな田舎者に……!」
顔を真っ赤にして狼狽するドミトリ。その様子を遠目に見ていた使用人の一人が、思わず呟いた。
「……レイン様、まさか手加減してらっしゃった?」
「ば、馬鹿な! 今のは偶然に決まっている! もう一戦だ!」
ドミトリが叫んだが、その場にいた誰もが、既に勝敗を悟っていた。
(ああ、もう……目立たないようにって、あれほど思ってたのに)
レインは内心でため息をついたが——同時に、周囲の使用人たちが自分を見る目に、羨望と称賛が滲んでいることにも、薄々気づいていた。それは、前世では決して得られなかった種類の視線だった。
(悪い気分では……ないな)
そう思ってしまった自分に、レインは少しだけ戸惑うのだった。
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