第18話 学園祭、決戦の刻
よろしくお願いします
学園祭当日。校庭には色とりどりの屋台が立ち並び、生徒たちの笑い声と、香ばしい匂いが満ちていた。
「レイン君、こっちこっち! 焼き菓子、味見してみて!」
フィオナの屋台を手伝いながら、レインもまた、久しぶりに何の憂いもない時間を過ごしていた。ドミトリの模範演武は大盛況を博し、観客から惜しみない拍手が送られていた。
だが、日が暮れ、祭りが後夜祭——学園中央広場での花火と音楽の催しに移った、まさにその時。
「――来たか」
レインは、肌を刺すような禍々しい気配を感じ取り、即座に身構えた。
夜空を彩るはずだった花火の輝きに紛れるように、校庭の一角から、黒い霧が噴き上がった。
「きゃああああっ!」
悲鳴が上がる。霧の中から現れたのは、以前とは比較にならない、明確な意思と力を持った存在——人型を保ちながらも、全身から瘴気を纏う、上位の魔族だった。
「久しいな、坊主。今日は、挨拶だけでは済まさんぞ」
以前、森で遭遇したローブの男が、今度は正体を隠すことなく姿を現した。全身から漏れ出る魔力は、明らかに以前とは桁が違う。
「皆さん、避難を! 教員の方々は生徒の誘導をお願いします!」
レインは声を張り上げると、剣を抜き、単身で男の前に進み出た。
「レイン君!」
「無茶するな!」
フィオナとドミトリの声を背に、レインは静かに告げた。
「二人とも、下がって。……これは、僕の役目だ」
ローブの男——名を名乗らぬ魔族の幹部は、ニヤリと嗤った。
「その面構え、まるで場慣れしているようだな。まあいい、貴様がゾルアーク様の言う『目障りな小僧』というわけか。今日、ここで消えてもらう」
男が両手を掲げると、周囲に無数の黒い刃が形成され、一斉にレインへと降り注いだ。
レインはそれを、最小限の動きで斬り払い、あるいは躱していく。前世で培った圧倒的な戦闘勘が、その一挙一動を的確に導いていた。
(手加減は、しない。ここにいる皆を守るためなら)
レインは踏み込み、男との間合いを一気に詰めた。
「なっ……!?」
男が反応する間もなく、レインの剣が、男の胴を深々と斬り裂いた。
「が……ッ! ば、化け物め……! この程度の人間が、なぜこれほどの力を……!」
崩れ落ちながら、男は憎悪に満ちた目でレインを睨みつけた。
「お前……ただの人間じゃあるまい。その力、まさか……」
男が何かに気づきかけたその瞬間、レインは容赦なくとどめの一撃を放った。断末魔の叫びと共に、男の体は黒い霧となって消え去った。
⸻
戦闘の余韻の中、レインは静かに剣を鞘に納めた。校庭には、避難していた生徒や教員たちが、恐る恐る様子を伺っている。
「レイン君……!」
真っ先に駆け寄ってきたフィオナが、レインの無事を確かめるように腕を掴んだ。
「大丈夫、怪我はない」
「よかった……! でも、あんな強い魔族、いったい……」
「詳しいことは、僕にもまだ分からない。……でも、これだけは確かだ。この件の裏には、まだ大きな何かが潜んでいる」
崩れ落ちる寸前、男が発した「ただの人間じゃあるまい」という言葉が、レインの胸に、鋭い棘のように刺さっていた。
(気づかれかけた、か……。俺の正体に)
その夜、学園長室に呼び出されたレインは、事の顛末を報告した。
「よくやってくれた、レイン君。だが……この一件、単なる偶発的な事件ではなさそうだな」
「はい。……おそらく、王国全体を巻き込む、もっと大きな動きの、ほんの一端に過ぎないのだと思います」
学園長は深く頷いた。
「王国上層部にも、この件を報告する。……レイン君、これからも頼りにさせてもらうことになるだろう。すまないが、よろしく頼む」
「はい。……僕にできることなら」
よろしくお願いします




