第10話 地下遺構の異変
よろしくお願いします
入学から二ヶ月ほど経ったある日、学園内で奇妙な事件が発生した。
「学園の地下遺構で、生徒が数名、行方不明になっているらしい」
噂は瞬く間に広がった。王立魔法学園の敷地の地下には、建学以前から存在するという古代遺構が広がっており、上級生の課外授業などで限定的に使用されていた。
「行方不明になったのは、確かドミトリのグループじゃなかったか?」
フィオナの言葉に、レインは眉をひそめた。
「ドミトリさんが……」
複雑な感情はあれど、放っておける話ではない。レインは教員に掛け合い、捜索隊への同行を申し出た。
「レイン君の実力なら、心強い。頼めるか」
学園長からの許可を得て、レインは数名の教員、そしてフィオナと共に地下遺構へと足を踏み入れた。
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地下遺構は、古代の魔法文明の遺跡らしく、壁一面に見慣れない魔法陣の刻印が施されていた。松明の灯りに照らされたその空間には、しかし——レインの肌に、覚えのある禍々しい気配が伝わってきた。
(この気配……ゾルアークの配下、いや)
奥へと進むにつれ、気配は色濃くなっていく。やがて一行が辿り着いたのは、遺構の最深部——古代の祭壇があったと思われる広間だった。
そこには、床に倒れ伏したドミトリと、彼のグループの生徒たち。そして彼らを取り囲むように、黒い霧を纏った、人型とも魔物ともつかない異形の存在が、複数体蠢いていた。
「な、なんだあれは……!」
教員の一人が息を呑んだ。
「あれは……『魔素憑依体』。人間や動物に、濃縮された悪意ある魔素が取り憑いて生まれる、下級の魔族の眷属だ」
レインは静かに呟いた。前世の記憶にある知識だった。この遺構自体が、古代の魔法儀式に使われていた場所であり、長年の間に澱んだ負の魔素が、何らかのきっかけで実体化してしまったのだろう。
(いや……自然発生にしては、この密度は異常だ。誰かが意図的に、この遺構の封印を弄った可能性がある)
「みんな、下がっていてください」
レインは剣を抜き、単身、憑依体の群れへと進み出た。
「レ、レイン君、危険だ! 一旦退避を……!」
「大丈夫です。この程度なら」
レインの言葉に反応するように、憑依体の一体が咆哮を上げ、襲いかかってきた。黒い霧の腕が、鋭利な刃のように変化してレインへと迫る。
レインはそれを最小限の動きで躱すと、返す刀で憑依体を一刀両断した。斬られた憑依体は、黒い霧となって霧散していく。
「グ、ゴアアアッ!」
残りの憑依体が一斉に襲いかかってくる。レインは冷静にその動きを見極めながら、一体、また一体と的確に斬り伏せていった。
そして最後の一体——ひときわ大きく、明確な悪意を纏った個体が、ドミトリに向かって腕を振り下ろそうとした瞬間。
「間に合え……!」
レインは地を蹴り、瞬時にドミトリの前へと割り込んだ。振り下ろされた黒い刃を剣で受け止め、そのまま押し返す。
「ぐっ……!」
拮抗は一瞬だった。レインは力任せに憑依体を弾き飛ばすと、返す刀でその胴を両断した。断末魔の咆哮を上げながら、最後の憑依体も黒い霧となって消え去った。
広間に、静寂が戻った。
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「な、なぜ……お前が、俺を助けた……」
意識を取り戻したドミトリが、震える声でレインに問いかけた。
「なぜって……仲間が危険な目に遭っていたら、助けるのは当然でしょう」
「俺は……お前を散々見下して、馬鹿にしてきたのに……」
レインは苦笑した。
「そんなこと、今は関係ないですよ。それより、怪我はありませんか」
ドミトリは、しばらく言葉を失っていたが、やがて深く頭を垂れた。
「……すまなかった。俺の、負けだ。全面的に、な」
その日を境に、ドミトリのレインに対する態度は、一変することになった。もっとも、レインにとってはそれ以上に、遺構の封印が何者かによって意図的に破壊された可能性の方が、重大な懸念事項だった。
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