蛤
「さすがだな、親父っ! だが、甘い!」
なんて言うか、ビジュアル的に良くないからやりたくないが背に腹はかえられない。口がいいか? 足がいいか? 口は親父とビジュアル的にかぶるから、足だっ!
「サウザンドニードル! さらにおかわりっ!」
魔法の源であるマナは手のひらや指、感覚が鋭いとこからは練習すればどこからでも放出できる。まあ、いわば全身どこからでもいけるんだが、たとえば耳とか自分の意思で動かしにくいとこだと、抵抗が増えて意力が減衰したり、放出系の魔法は的に当たりにくくなったり精度が下がる。唇は誰でも自在に動かせるから、マナの起点にはやりやすいが、今現在親父が唾吐まくってるの見てるとかっこ悪い事この上ない。ていうかキモい。まあ、僕は足の指でペンを握って文字を書けるほど器用だから足でもいける。
上げた右足の裏から光の柱が親父に向かって伸びる。今度は僕から見て親父の右側をミサイルで狙う。
「おいおい、まだ白いもの出せるのかよっ! 出し過ぎだろ!」
おっ、親父を焦らせる事が出来た。足から出した最後の光の柱が親父に命中する。
「アウチッ! アボボボボボボボッ!」
ダメージを食らって集中が切れたのか、顔と尻にも光の柱が当たる。親父は光に包まれ、汚い悲鳴も途切れる。この令和の世の中、下品は抹消される運命にあるのだ!
親父はしぶといから念入りにミサイルをぶち込む。五分くらいじっくりとミサイルをぶち込みまくる。まあ、これでやれはしないとは思うが、運良く昇天しててもリスポーンできるから問題なし。もういいだろと思ってミサイルを止めると、そこにはあぐらをかいたまま腹ばいの親父がいた。血は出てないし、腰巻きも生存してる。なんてタフなんだ。親父の腰巻き……
「親父、降参か?」
「足がー、足がとれねー」
アホ親父はなんか仏像さんたちがやってるような、足の甲を太股にのせて、両の足の裏が上を向く高度なあぐらを組んでた。あの、昔有名だったカルト宗教の教祖が空中浮遊してたあぐらだ。取れないのか。アホだなー。
「まだやるのか?」
僕は右手の手のひらを親父に向ける。
「まて、まて、起こしてくれんか?」
「その手は桑名の焼き蛤だ」
この言葉使ってみたかったんだ。内閣総理大臣も使ってたし。親父を助けようとしたら、絶対不意に何か仕掛けてくる事だろう。
タッタッタッタッ。
ん、親父の後ろから誰かが駆けてくる音が?
「えー、女王様が走ってる!」
マグロの驚きの声。
二列の松明の間を走ってくる女の子。メタルグリーンの髪の毛。
「エルっ!」
僕は大声で彼女の名を呼ぶ。
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