失われた記憶 35
僕らはカフェを出て帰途につく。人通りが多い道をエルについて歩いていく。エルが立ち止まり僕は当たりそうになるが避ける。
「うおっと」
どうにかかわしたけど、ぎりだった。ちょっと当たっても良かったかなとか思ってしまう。自分キモい。
エルの視線の先はこ汚い婆さんらしきものが横たわっている。歩道に凹凸があるとこだから転倒したのだろう。腰に手を当てて緩やかに動いている。酔っ払ってるのか? その婆さんが無いものかのように、一瞥する事もなく人が通り過ぎていく。
「動いてるから、大丈夫そうだね」
僕の言葉が聞こえてないようにエルはスタスタと婆さんの方に歩いていく。そして、婆さんに手を貸して立ち上がらせる。そのままエルは、しがみつく婆さんに肩を貸したまましばらく歩き、バス停のベンチに座らせる。僕は気恥ずかしく感じながら距離を取ってついていく。
「なんで見ず知らずの他人にそんな事できるの?」
戻ってきたエルに問いかける。
「ん、困った人が居たら助けるのは当たり前だろ」
エルがノータイムで応える。
「うん、それはわかるけど、やっぱ普通の人じゃできない事だよ」
僕も助けた方がいいのかなとは思った。けど、見てる事しかできなかった。
「ん、なんでだ? ただ手を貸すだけだろ」
「ほら、なんか目立つし、恥ずかしいし。汚れたりするし」
自分でも情けない事を言ってる自覚はある。けど、なんて言えばいいかわからないけど、なぜかはわからないけど、エルが躊躇いなく動いた理由が知りたいんだと思う。
「そんなの大した事じゃないだろ。じゃ、お主に問うが、転倒した老婆を見て、助けるのと助けないのどっちが、そうだな、格好いいと思うか?」
「……そりゃ助けない方が格好悪いよ」
もしかして僕は助けなかった事を非難されてるのか?
「それなら十分だ。お主は困った人を見て自分は関係ないって思ったわけじゃないだろ。ただ、気が弱いから恥ずかしかっただけだろ。なら、次に困ってる人を見たら、誰も助けてあげないのなら、勇気を出して助けてみろ。けど、その助ける事で自分を犠牲にするのは無しだ。ほら、そんな情けない顔しないで行くぞ」
僕に背を向け歩き始めるエルを追っかける。なんか、エルって僕の母親みたいだな。そして、その後別れて、また、一週間後にエルにご飯を作る事になった。
僕は今日は漫画の新刊を買うために本屋に向かってる。そこそこ人気くらいの作品なのでコンビニには入らない。ネットで頼んだ方が早いけど、僕は本屋で買ってついでに平積みの漫画の表紙を眺めて面白そうなのを探すのが好きだったりする。その向かう途中、女子高生が三人前から歩いてくる。あ、真ん中歩いてるのはエルだ。髪の毛は黒く、少し地味な感じ。鏡の中のエルだ。
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