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 失われた記憶 24


「アーメージングレース♪」


 僕の背中からもアメージンググレースが流れてくる。歌ってるのはエルだ。つい台を打つ手が止まる。台とエルのハーモニー、歌ってこんなに素晴らしいものだったんだ。なぜか涙が出そうだ。

 僕には何もない。人より優れたとこなどなく、夢もなく、お金もなくて、仕事もなくてひっそりとアルバイトで暮らしている。ずっとずっとそういう生活をしていくのかと思ってた。十年後、二十年後、そういう事を考えるだけで胸が締めつけられるような感じになる。その僕が今スロットで勝利を摑み、スロット台が天使のように歌い、後ろではガチ天使が聖歌を熱唱してる。これは現実なのだろうか。スロットでの勝利、ちっぽけな勝利だ。けど、震えるくらいに感動してる。動いたからだ。動いたから今の状況はある。行動したら上手くいかない事が多いかもしれない。けど、僕は知ってしまった。勝利の美酒を。エルの顔が見たくて振り返って驚愕する。10人くらいの人が僕らを遠巻きに見てる。うっとりとした暖かい顔で。僕を応援してくれてるように思える。多分、エルの美しい歌声のおかげだろう。けど、今の僕は輝いている。エルの予知のおかげだけど、こんな僕が人の注目を集めている。やろう。やれるだけやろう。僕は背筋を伸ばし、エルに微笑むと遊戯に戻る。



 一万二千枚だった。それは激しい戦いだった。GODs絵柄はもう一回揃ったし、7も数回引いた。なんか爆発したり、火を噴き出したり、画面に大きく『激熱』とか出たり、それはそれは激しかった。個人的には七色に着色された往時のパルテノン神殿がとても美しいと思った。人のふんどしだけど、僕は何か凄い事を成し遂げた気持ちになった。このお金は僕のためには使わない。エルに美味しいものを作ったりするためだけに使う。

 そして換金してパチンコ店を後にする事にした。最終的に一人17万手にして、もうエルは満足したみたいだ。なんかフワフワした夢見心地のまま、ネットで調べた。美味しくて回ってない寿司屋へと向かう。



「むむむむむむむっ。美味しい」


 最初に出てきたのは芽ねぎ。僕らはカウンターに通されて、目の前で職人さんが握ってくれて寿司をカウンターに置いていくスタイルだ。当然初めての経験だけど、いかにも通っぽく泰然自若を心がけてる。

 正直野菜の寿司なんて邪道だと思ってた。それに、もし旨いのならいの一番に回転寿司に並んでるはず。シャキシャキしてて、ネギの癖がアクセントになってる。これは大人の味だ。しかもあっさりとしてるからこれなら幾つでも食べられる。


「もう一つお願いします」


 エルも気に入ったみたいだ。僕も追加を頼んだ。


 


 読んでいただきありがとうございます。


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