失われた記憶 22
「そのアクションなのなの?」
エルは指で作った輪っかでスロット台を視てる。次はいいのが見つからないらしく、ウロウロしてる。
「んー、全部見えたら、頭がパニックになるから、この指の間だけ見えるようにしてるの。ピカソの絵みたいに、像がダブって見えるのよ」
「そうなんだ。僕には見えないの」
「んー、多分無理ねー」
いつの間にエルの話し方が普通の女の子みたいになってる。もしかしたら、~のだ口調は、キャラを作ってたのかもしれない。今まで会った、そういう口調の女性を思い出すと、学校の先生とか、会社の役職がある人だったな。人をまとめる肩肘張った人が女性っぽい柔らかさを押さえるためにそういう口調を使ってるんじゃないだろうか? という事はエルもリーダー的な事をやってたのかなー? なんか人をのせるの上手い気もするし。
「あった! あった! あれを打つよ」
「えっ!?」
そのスロット台の名はミリオンゴッズ。これは僕も聞いた事がある。昔友達がこれで大勝ちして奢ってくれたからだ。鬼のようにお金を飲み込む台だけど、勝てば一撃でミリオン、一万枚出るという。一万枚はだいたい20万円、大卒の社会人の手取りくらいある。そりゃ街でたまたま見かけた知り合い程度の同級生にお酒でも奢りたくなるってもんだ。ちなみにその友人は10万円つぎ込んで20万出したそうだ。10万て、負けたらどうするつもりだったんだろう?
「これは止めようよ。せっかくの勝ちがなくなっちゃうよ」
僕のカードには2500枚のメダルが溜まってる。これって五万円くらいだよね。もう十分だと思う。軽く僕の月収稼いでるような。
「何言ってるのよ。そこにお金が落ちてるのよ。拾わないと」
エルは自分のポーチを台の椅子に置く。
「よくそう言う人いるけどさ、拾ったお金って警察に届けないといけないんじゃないの?」
「わかったわ。警察に届けなくていいお金が落ちてるのよ。しかも税金もかからない。拾わないとっ!」
「そっかー。それなら拾わないとねー。けど、使うのは50枚だけだよ。この台の初代じゃ負けすぎて自殺した人がいるって都市伝説もあるくらいだから」
ポーチをエルに渡して優雅に座り、慣れた手つきでカードを入れる。そして再プレイボタンを押して、ベットボタンを押す。パチンコじゃ醜態を見せたが、さっきの北風の拳でコツは掴んだし、もう僕はどこからどう見ても玄人だ。回りのお客さんたちも可愛いお姉ちゃんを連れた、冴えないけどしごできなサラリーマンに見える事だろう。そして、レバーを押す。
『プシュン』
え、十字の残像を残して液晶が消えた。も、もしかして台ぶっ壊した?
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