失われた記憶 18
「おお、リゲロだ。レメだレメ」
僕の好きなアニメのスロットだ。液晶のパネルから青髪の女の子のおなじみの名シーンが流れている。英雄って言葉に憧れた瞬間だ。
「ステイ、ステイ」
服の裾を引かれてつんのめりそうになる。どうやらフラフラ近づいてたみたいだ。
「ねぇ、あれやろうよ」
「まてまて、子供じゃないんだから落ち着け。私がしっかり見るから、その台にしろ」
ふじこちゃんムーブが崩れてる。
「あ、うん、わかった。あ、お金は僕が出すよ」
「何言ってるのよ。私が言い出したから私が出すわよ」
お、ふじこちゃんが帰ってきた。
「えー、なんかギャンブルのお金を出してもらうのって、なんだかダメ男みたいじゃない」
「気にしなくていいわよ」
エルはごそごそと財布からお札を出す。また伊藤博文さんかい……
「そのお札はいただきます。僕がそれでお金出したら問題ないでしょ」
「まあ、なんか自分でお金出してない気分になるけど、それでいいわ」
けど、僕の財布の中には一万円と少ししかない。一万負けは負けに入らない、十万負けの猛者がざらにいるとか雑誌には書いてあった。一日十万って、僕がもしそうなったら凹んで数日は立ち直れないだろう。怖すぎる。けど、今の僕もヤバいんじゃないか? 負けたら摘むんじゃないか? 大事をとって二千円だけは残そう。それでなんとか運賃と牛丼代は捻りだせるだろう。
「あ、待ってよ」
少し考え込んでるうちにエルが進んでる。右手何してんだ? 親指と人差し指で輪っかを作って目にあててる。エルはズカズカとパチンコの台と台の間の通路を歩く。左右の空いてるパチンコ台を見てる。君の方が子供っぽいよ。
「これにするわよ」
「えっ!」
エルが選んだのはパチンコの邪狼。これは知ってる。坊主頭のお笑い芸人さんが、友人の芸人さんに結婚式でもらった十万円をつぎ込んだと言われる伝説のパチンコ台だ。勝ったって言ってないから多分ストレート負けだったんだろう。怖すぎる。その芸人さんがご祝儀をお返しするときに五万円しかなくて手づからの折り紙をご祝儀袋に入れたという話で爆笑したから覚えている。
震えを覚えながら台に座る。これって千円秒殺されるんじゃないか? 千円だけ使って負けたって事にして、残りのお金で二人で回転寿司でも食べに育成方が楽しいんじゃないか? 背中に氷柱を差し込まれた。よくこういう表現されるけど、僕はそれを体験してる。下半身が萎縮し腰にズーンときてる。
「んー、大丈夫か、お主。顔がまっ青だぞ」
ふじこちゃんが剥がれたエルが後ろから話しかけて句る。ギギギと振り返ると椅子を持ってきて座ってる。いつの間に。
「も、も、ももうまんたい」
「頑張れ。これも試練と思うのだ」
僕の回りではたくさんの人たちがパチンコを打ってる。みんなこの試練を乗り越えた猛者づくしなのか?
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