失われた記憶 17
「実際に体験してもらうってわけよ」
ラファエルが甘ーい声で言う。これがメロいってやつか。初メロだ。ん、体験? な、なにを体験するんだ、僕は!?
「じ、実際に体験っ!」
つい、言葉が漏れる。
「そう、必勝法を実感してもらうわ」
おっと危ない。妄想が暴走するとこだった。
「そうだよね。実際に必勝法を体験しないとねー。けどさ、もし、勝ったとして、何にお金使いたいの?」
「そんなの決まってるでしょ。私さごちそうになってなんの対価も払ってないでしょ? だから、勝ったお金をキラに払いたいってわけ。君、決してお金持ちってわけじゃないでしょ?」
「え、そんな事気にしなくてもいいのに、好きでやってんだから」
「そういうわけにはいかないわよ。人の好意は素直にうけとりなさい。それに、まだまだハンバーグ食べたいから」
「あ、うん。それなら……」
まじか。僕に食材費をくれるためにお金が欲しいのか。それに、また、ハンバーグ食べたいって。少し、いや、かなり嬉しい。
けど、よーく考えたら、お金をもらえるのは、勝つ事が前提なわけで、負けたらどうなるんだろう?
「というわけで、勝ったお金は半々って事でいいわよね」
「う、うん」
「あと、贅沢なディナーもいいわね。私が奢るから、シースー、回らないやつ食べるわよ」
なんと、回らない寿司だと。そんな夢のようなものを食べられるのか? でっかいエビ乗ってるかなー。
「ラファエルさんって、そういう店によく行ってるの?」
「そんなわけないでしょ。いつもはスーパーの半額になったパックの寿司よ」
まじか、けど、世間知らずのラファエルさんが、スーパーで買い物してるのが想像できない。誰かに買ってきてもらってるんだろうか?
「あとー、そのラファエルさんっていうの止めない? そうね、エル、エルでいいわ」
「エルさん?」
「エルでいいわ。私の方が年下なのに『さん』づけしてたらおかしいでしょ」
なんか、こういうとこは常識人なんだよな。ちぐはぐだな。もしかして、長い間海外にいってたりして。
「あ、次降りるわよ」
「あ、うん」
僕はそそくさとラファエルさん、いやエルについていく。
「なんか怯むわね。キラ、先に入ってよ」
なんなんだここは昔のギリシャの神殿かよ。今まで興味が無かったから気にしてなかったけど、郊外巨大パチンコ店ってすごい。駐車場にはホテルのドアマンのような警備員がおり、正面玄関はまるで外国の高級ホテルみたいだ。行った事ないからイメージだけど。
「あ、行くね」
気の利いた言葉も思いつかず僕は回転ドアに足を踏み入れる。そう言えば回転ドアって最近は作られないって話を聞いたような。このパチンコ店ってかなり昔からあるって事だろう。
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