失われた記憶 11
「悪いが時間がない。この座標はマークしたから、また一週間後の12時ににハンバーグを食べに来るから用意しててくれ」
そう言うと彼女は立ち上がる。あ、そう言えば、名前を聞いてない。
「ちょっと待って、僕の名前は斉藤綺羅。君の名前は?」
「ラファエル、ラファエル・ハートマン・篠田。都合が悪くなったら連絡してくれ。ごちそうさま。じゃあな」
彼女はそそくさと立ち去った。ラファエル? 日本人じゃないのか? けど、名前って二人っきりだったらあんまり重要じゃないんだな。さらに他者が関わる事で必要になるものなんだ。なんか恋人同士みたいだった。夢だったんじゃ? けど、甘い花のような、森林のような残り香がさっき起きた事が現実だと主張していた。
それから平々凡々な日々に戻り、一週間後、僕はハンバーグとオムライスとミネストローネをスタンバって待つ。携帯がブーブー震える。僕はバイブ派だ。時間は11:55。ラファエルだ。
『すまん、少し遅れる』
通話はすぐ切れ、10分ほど遅れて彼女がやってきた。
「すまんすまん、ガキ共に教育をしておった」
ガキ共? 彼女に子供がいるようにはみえないし、子供の世話をするボランティアでもしてるのか? ん、白い腕に赤いものが!
「大丈夫か? 怪我してないか!」
僕が慌てて差し出したティッシュを一枚とると、彼女は血を拭う。怪我してない?
「返り血だな。全部避けたと思ったんだが。最近のガキは根性ないくせに、デカくて頑丈だな」
ん、返り血? 頑丈?
「え、何してたんだ?」
「ああ、説明不足だったな。コンビニでしつこく絡んでくるガキが四五人いたから、目立たんとこでヤキ入れてやったんだ。こう見えて、私はべらぼうに強い」
さすがにそれは冗談だろう。彼女は小っこいし痩せ気味だ。箸より重いものを持ったことありませんと言ってもつうじそうだ。
まあ、実際は、なんか僕には言いたくない用事で、血に見えたのは違うものなんだろう。この時はそう思っていた。
「そんな子供より、御飯、早く早くー」
急いで準備して料理を並べる。
「皿が温かいから気をつけてね」
火傷したりする温度ではないけど、サラダ以外の皿はお湯で温めてる。触った時にびっくりしないように一言添えた。たったこれだけの工夫で、美味しさを持続させられる。『温かいものは温かいうちに、冷たいものは冷たいうちに』と言うのは、僕の料理の師匠の口癖だ。ちなみに、温かいは70℃以上、冷たいは0℃と師匠は言ってたが、ちょっと誇張入ってる。
「「いただきます」」
小テーブルの上に料理、座ってるのは座布団。なんかこの昭和っぽさが新婚さんって感じで悪くない。
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