失われた記憶 9
「私の目をみてみろ」
食事も終わり、テーブルの上にはお茶。彼女の顔が手のひら一つくらいの距離まで近づく。やべ、可愛い。チューしていいのか?
「何色だ?」
やっぱ、チューなわけないよね。
「グリーン」
彼女はゴソゴソとポーチから小さい折りたたみ鏡を出す。そして、顔の横にする。
「鏡の中の私の目を見ろ」
「え……黒い?」
真っ黒、いや、焦げ茶色、普通の日本人の瞳だ。それだけじゃない。鏡の中に映る彼女の顔が違う。なんて言うか、地味だ。似ているけど違う人。そう、姉妹とかそんな感じだ。なんでだ?
「やはりな。お主にはマナが見えてるようだな。で、私の髪の毛は何色に見える?」
「暗い緑?」
「私の髪を鏡で映してみろ」
受け取った鏡に彼女の髪を映すと、艶やかな黒色。綺麗な色だけど、緑がかってない。
「え、どういう事?」
んー、訳がわかんない。僕の目に見えてる彼女はバリッバリの美少女で、グリーンの目に玉虫の羽根ような黒っぽいグリーンメタルって感じだ。けど、鏡の中にいるのは、真っ黒な髪に黒い目、大人しそうな顔の大和撫子って感じの美少女。生まれて初めての超常現象に戸惑う。よく考えろ。鏡に映ってる方が本当の彼女だとすれば、僕の見ている彼女はなんなんだろう? 幻覚? んー、わかんない。そう言えば、彼女は僕がマナが見えるって言ってたな。マナってなんだ? 僕が知ってる限り、マナって確か、見えない力的なものだったと思う。創作では魔法の力の源泉だったりするやつだよな。という事は、彼女は僕に魔法の力的なものが見えてるって言ってるのか?
「携帯で見てもいいか?」
「まあ、いいが、写真撮ったら見せてくれ。写りが悪いのは却下だ」
携帯を通してみたら、黒髪大和撫子が映ってる。げ、これガチだ。携帯が手からこぼれる。僕は大きく深呼吸する。
「で、落ち着いたか? それにしてもお主面白いな。そんなに考えてる事が顔に出る人間はそうそう居らんぞ。まあ、説明しても信じられないと思うから、結論だけ言うと、お主には私の本来の姿が視えているって事だ」
えっ、本来の姿? もしかして彼女は妖怪か何かなのか?
「そんな驚くでない。私は正真正銘人間だ。少し特殊な力を持ってはいるが」
もしかして、超能力系なのか? 僕にも眠ってる力があるとか? 僕はオカルト系は創作の出来事だと信じてたのだが、自分自身だ体験してるから信じざるを得ないな。
「それで、お主にはできればこのことは黙ってて欲しい。私は可能な限り目立ちたくない。やらねばならない事があるからな」
「ちょっと待った。目立ちたくない? 感覚がズレすぎだよ。気付いてないのか? 君、多分、目立ちまくってるよ」
僕はそんなに常識がある方ではないとおもうが、それでもわかる。彼女は非常識の塊だ。僕は早朝に旧札で駄菓子だけ買う美少女の特異性を懇々と説いた。
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