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 失われた記憶 8


「なんだこのハンバーグ。美味すぎるぞ」


 もきゅもきゅとハンバーグを食べる彼女を見て、ハンバーグのメカニズムに思いを寄せる。

 まず、塩とミンチだけで揉む事で肉の中の筋繊維のアクチンとミオシンが溶け出して絡み合ってアクトミオシンというものに変わって粘っこくなるそうだ。このアクチンとミオシンというのは学校で習った。高校の生物の授業だったな。アクチンとミオシンというのは筋肉を収縮させたりするたんぱく質で暗記させられた。けど、その時の先生の暗記法がインパクト強すぎで一発で覚えて、しかも今でもすぐに思い出せる。先生の声が頭の中に蘇る。画面が変わっていく。


 クッソ熱い教室の中、冷房や暖房は無かった。ん、なんで無いんだ? 先生が黒板に「アクチン」「ミオシン」と書く。爺ちゃん先生で、先生は何故かいつも白衣だ。暑くないんだろうか?


「生物学では、たくさんのアミノ酸やたんぱく質の名前を覚える必要があります。ですが、三教科受験でこの授業が受験で関係ない人も多いでしょう。人間の頭は興味が無い事は覚えにくいように出来てます。ですから、君たちに興味がある形で覚えてもらいます。知識はいついかなる時に役立つかはわからないですから」


 うん、確かにそうだ。生物で習った事が料理に深く関わってるもんな。


 そして先生は黒板に文字を書く。字、上手いな。そう、黒板に字を書くのって存外難い。けど、それは簡単に乗り越えられる。書いて書いて書きまくるのだ。そしたらいつの間にか見られるようになる。下手くそだった僕も、お店の日替わりのお品書きを黒板に数百回かいた後には中々のものになっていた。

 授業を僕は受けてるのに、今の僕がそれを見て感想している。なんかおかしいけど、多分、ラファエルの思い出させる力のせいだろう。それよか、暑いのになんか下半身がスースーする。記憶の僕は動かせないから確認できないが、もしかしてスラックス脱いで授業受けてたりすんじゃないか?

 先生は字を書き終える。


『身惜しんで、飽くチンコ』


 爆、下ネタだよ。昭和だから許されてた?けど、今ならネットニュースになってるよ。先生は滔々と語る。


「性豪の彼氏を持った彼女の心のうちですかね。やり過ぎてスレて痛いから男性器が嫌いになったって事でしょう。多分若いですね。年を取って知識が増えたらローションを使用してるはずですから」


 多分、みんな一生、アクチンとミオシンを忘れない事だろう。その先生の言葉で、教室に変な空気が流れた。顔を赤くする者、笑う者、そして僕は黒板から顔を逸らした。恥ずかしがってたんだろうか? 下ネタマエストロな僕にもそんな純な時代が。ん、高校生の僕がそんな純なわけないぞ。それより、おかしい、なぜ昭和? 僕が授業受けてたのは平成なはず? 


 僕の疑問を置いて、画面が戻る。美味しそうにハンバーグを食べているラファエル。細かい事はどうでもよくなってきた。



 読んでいただきありがとうございます。


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