失われた記憶 4
「このお金使えないんですか?」
彼女の手には次は伊藤博文の千円札。僕を見ても表情一つ変えない事から、この前の事は覚えてないように見える。
「使えますけど、もったいなくないですか? とっといた方がいいんじゃないですか?」
「子供の時にそう思ってとってたんだけど、あってもなんにもならないから」
確かにそうだ。母親がとってた五百円札を見た事があるけど、ネットで幾らで売れるか調べてみたら折り目つきだと額面通りの価値しかないとの事だった。彼女が前に持ってきた一万円も同じ理由だったんだろう。僕はまた自分のお金と交換した。彼女が買ったのはまた20円のチョコと15円の酢蛸三太郎だった。
「子供の頃は10円だったのに」
ボソリと呟いた彼女の声が聞き取れた。そう言えば、10円だった駄菓子が数年前に15円に上がったな。その時はあまりその言葉を深く考えなかった。
バイトも終わり伊藤博文の千円札を眺める。せっかくまた会えたのに、もっと話せば良かった。けど、なんか引っかかる。何気なしに伊藤博文の千円札をネットで調べる。発行されてたのが1986年まで!? ん、計算が合わないぞ。紙幣が変わったのが40年以上前。それを彼女は子供の頃にとってたって言ってた。まあざっくりと旧紙幣が出回ってたのを5年くらいとしても35年以上前、僕のようなお金を扱うバイトをしてたらたまーに旧紙幣や二千円札を見る事もあるけど、子供がアルバイトしてるわけがない。実家が商売をしてて旧紙幣に遭遇したとかもあり得るけど、それはレアケースだろう。
それに子供の頃は10円だったのにって言葉が、酢蛸三太郎だけじゃなくチョコレートにもかかってたとしたら、またネットで調べる。チョコレートが10円だったのは1993年まで。これも30年以上前。もしかして、彼女はタイムトラベラー? そんなわけないか。まあ、なんか色々珍しい事が重なってただけだろう。けど、なんでいつも朝5時半? この時間にくるのは、パンツとティーシャツのいかにも家から面倒くさいから着替えずに来ました的なおっさんや、酒の香りをプンプンさせた飲み屋のお姉さん。早起きのじいちゃんばぁちゃんとかが多く、ピシッとした格好した人は少ない。けど、彼女は二回とも綺麗な格好で髪の毛をサラサラさせていた。しっかり身だしなみした後だろう。という事は1時間以上前には四時半前には起きている。それに私服なのも謎だ。彼女の見た目は中高生。学校行ってないんだろうか? 謎ばっかりだけど、考えても答えは出ない。もし、機会があったら聞いてみよう。けど、それは無いんだろうな。
「キラさん、キラキラさん、きてクダサイ」
また早朝品出ししてる僕をグエンさんが呼びにくる。昔からよく言われる『キラキラ』というあだ名にムッとしながらついていく。
「これ、使えますか?」
あれからまた数日経っている。彼女の手には青い字がかいてある紙切れ。五百円札!?
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