不可避
「うわ、きたなっ、マリー様、糸引いてますよ。あたしに近寄らないでくださいね」
マグロがさらに僕から離れる。ひでぇ、汚いのは僕ではなく、親父が放った唾なのに。まあ、不幸中の幸い、髪にはついてない。くそっ、普段だったら収納からタオルを出して拭くのに、今使えないからな。シェイドも居ないから、部屋からも持ってこられない。やっぱハンカチくらいは標準装備するべきだな。やむなくスカートで汚物を拭う。
「クソ親父、正々堂々戦いやがれ」
「おい、何言ってやがる。使えるものを使ってるだけだ。卑怯でもなんでもないだろ。悔しかったら真似すればいいだろ。ぶっ!」
やると思った。口元が見えてるから方向はわかる。即座に右に避ける。
バシュッ!
「ゴボッ!」
みぞおちに激痛を感じ吹っ飛ばされる。口から生暖かいものが。床で数度バウンドしてうつ伏せに倒れる。うぅ呼吸できない。床を真っ赤な液体が汚していく。どうやら内臓を痛めたみたいだ。オートヒールがあるからしばらくしたら回復するはず。けど、何で当たった? 確実に避けたのに。
「どうだ。バカ娘。カーブだ。撃つ時に舌でちょちょいっと回転かけてやったんだ」
まじか? 吐く唾でカーブ! いや、嘘くさいな。カーブをかけたというのなら、僕が左右のどちらに避けるのか親父が読んだという事になる。断じていい。親父にそんな知能は無い。それに、二分の一外れるような賭けを奴はしない。という事は僕がよけるのを見て曲げた。奴は重力を操る。そういう事だろう。けど、それなら打つ手なしだ。キラならまだしも、マリーのままだったら避けられない。
「クソ親父がっ!」
気合いを入れて立ち上がる。負けてたまるか。諦めない限り、何らかの手はあるはず。不愉快な事に服から悪臭が漂ってくる。
「そんなチンケな攻撃、痛くも痒くもないわ。臭ぇだけだ」
「強がり言うな。食らいやがれ。ぶっ!」
「グラビティ・ゼロ」
飛んで逃げる!
「オメガ・グラビティ!」
親父が叫ぶ。ゲッ、ジャンプしたのに、ほとんど体が浮かばない。ただ上下に揺れただけだ。
「グワッ!」
左肩に痛みが。回転しながら吹っ飛ばされる。さっきより痛くないが、変わりに回転が凄い。上下左右、わからなくなり、頭がガンガンする。多分、丁度重力が減った時に当たったんだろう。僕がカットした重力を親父が逆に増やした。この、反射神経の差はどうしようもないな。暗い天井が目に入る。頭がクラクラするが、首を回して親父を見つける。その口がすぼめられてる。ヤバい。とどめ刺される。
「ぶっ!」
汚ぇ音がする。クソッ。唾で昇天させられるのか?
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