第3話 麻婆豆腐は無理だから、納豆
清掃作業を終えて、
宇宙船は自動運転で帰路についていた。
警告もなく、
航路も安定している。
今日は、もう終わりだ。
床に視線を落とすと、
くーちゃんがいた。
お腹を、ぺたんと床につけたまま、
じっと、こちらを見ている。
目が合った。
すると、
むくっと起き上がり、
行儀よく――おすわり。
そのまま、
期待に満ちた顔で、こっちを見る。
「……はいはい」
そう言ったところで、
俺の腹が鳴った。
……ああ。
そういえば、と思い出す。
***
仕事を引き上げるとき、
スペースポートの通りで、
やけに元気な声が響いていた。
ポニーテールの、
気の強そうなおばちゃんだった。
忙しそうに駆け回りながら、
大きな声で客を呼んでいる。
何を売っているのか気になって、
近づいてみると、
中華料理のセットだった。
弁当みたいに、
いくつも並んでいる。
その中から、
麻婆豆腐を選んだ。
「最後の一個だよ! 美味しいよ!」
そう言って、
手渡してくれた。
……でも、
よく見ると、
まだ何個か残っていた気がする。
***
容器を開けて、
麻婆豆腐を温める。
テーブルについて、
一口。
……美味い、気はする。
でも、
半分は、辛さでよくわからなかった。
足元に、
くーちゃんがやってくる。
「キャン」
小さく吠えて、
膝を、チョンチョン。
さすがに、
これは食べさせられない。
冷蔵庫へ行って、
くーちゃんの好物――
納豆のパックを取り出す。
開けて、
スプーンですくい、差し出すと、
嬉しさのあまり、
勢いよく、かぶりついた。
その拍子に、
棚に、鼻を――ごん。
「……大丈夫か?」
声をかけても、
くーちゃんは、
夢中で、もぐもぐ。
納豆を食べ終えると、
こちらを見上げて、
にこっと笑った。
弾けるような笑顔。
……気にしてなさそうだな。
今日も、平和で、悪くない。
たぶん、
明日も平和だろう。
そんな、
根拠のない自信を持ったまま、
一日が終わった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
くーちゃんとの宇宙船の日常を、
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また次のごはんの時間に、
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