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いつから俺の青春が『普通』だと思っていた?  作者: 結城 ユウキ
第1章 『普通』じゃない彼女

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第8話

 翌日の昼休み。


 俺はいつもの友人二人とご飯を食べていた。


「昨日は大丈夫だった? バスケ部に来たみたいだけど……」


 湊はそう言いながら、珍しく教室にいる旭丘凛に目を向けた。彼女は自席でスマートフォンをいじりながらサンドイッチを食べている。


「知佳がボコられて泣いてたよ」

「泣いてないわよぶっ飛ばすわよ」


 知佳から右ストレートが本当に飛んできたので左手で受け止める。いやちゃんと痛いな。結構な勢いで殴ってきてんじゃねえか。


「彩人大丈夫? またいじめられた?」

「実は昨日体育館裏で……」

「おい早宮、お前はなんでこいつの味方をする?」

「だってどう考えても知佳のほうが強いから……」

「待て湊、それは俺のことも貶してないか?」


 そんな他愛のない話で盛り上がっていると、視界の端で旭丘が誰かに話しかけられているのが見える。


 学校であいつに話しかける人間はもはやいないと言っても過言ではないので、なかなか珍しい光景だ。


 二、三言葉を交わすと、旭丘が席を立ちその人についていった。なんだか、あまりいい雰囲気ではなさそうだ。


「すまん、ちょっと外す」

「ちょっと、もう昼休み終わるわよ?」

「悪い、後でノート見せてくれ、湊」

「うん、わかったよ」

「なんで私に頼まないのよ!」


 喚く知佳を無視して、俺は旭丘の後を追った。



 急いで廊下に出ると、ちょうど階段を降りる旭丘の姿を捉えることができた。


 走ると目立つので、早歩きで後を追う。どうやら体育館の方に向かったらしい。


 渡り廊下を通り体育館に着いたが、旭丘の姿は見えない。体育館の周りをぐるりと回ってもいみたが、やはりいない。


「中か……?」


 この高校の体育館は二階建てとなっており、一階部分はトイレや更衣室、体育教官室などからできている。更衣室にいるのであればもう詰みだが、幸いなことに話し声は聞こえない。


 体育教官室にいる先生たちに見つからないように、俺は二階部分のアリーナに向かう。


 入口は開放されていて、すんなり入ることができた。


 一見、誰もいないように見える。


 だが耳を澄ますと、なにか語気の強い言葉が聞こえてきた。授業や部活で使う備品がしまわれている倉庫の方だ。


 気づかれないように中を覗くと、上級生らしき女の先輩たちが旭丘を取り囲んでいた。五人ほどだろうか。なぜ囲まれているかはわからないが、それが異常であることはわかる。


 近づいたおかげで、中の会話が聞こえるようになった。


「あんたさ、一体何がしたいわけ?」


 かなり責めている口調で、一人が言った。


「いきなり部活押しかけて、好きなように振る舞って部員傷つけて。あんたのせいで部活来れなくなった子もいるんだけど。どう責任取るの?」


 どうやら旭丘に荒らされた部活のOGたちらしい。可愛い後輩たちが被害に遭っていてもたってもいられない、というところだろうか。


 とはいえ、相手はあの旭丘凛だ。先輩五人に詰められたところで、別になんとも思わないだろ

う。俺はそう決め込んでいた。


 だが、旭丘の反応は俺の斜め上を行くものだった。


「わ、私、は……」


 言葉がうまく紡げず、自らの制服の腕のあたりを強く握り込む旭丘がそこにいた。


 普段の旭丘なら暴言の一つや二つ吐いてその場を後にするくらいの勢いがあってもおかしくはない。だが今この場にいる旭丘は、明らかに様子がおかしかった。


「あ? なんとか言えよ」

「ここに来て被害者ぶるわけ? 都合良すぎでしょ」


 萎縮して縮こまっている旭丘にかけられる心無い言葉。


 静観しているつもりだったが、さすがにこれを放っておけるほど人間腐ってはいない。


 俺はあくまで自然に、今ここに来たような態度で、


「おーい旭丘―、いるかー?」


 そう声を出しながら、体育倉庫を覗いた。


「あ、ここにいた。すみません、お取り込み中でしたか? 旭丘のこと先生が呼んでて……」


 そう声をかけると先輩たちは慌てた様子で、「おいなんで入口閉めてないんだよ……!」「いや、誰も入ってこないと思って……」などと言い合いながらそそくさと外へ出て行った。


「意外とすんなり出て行くもんだな……」


 ひと悶着あることを想定していたが、やはり自分の身は可愛いのだろう。ましてや受験を控えた歳だ。目立つことは避けたいはず。


 先輩たちが出入り口から見えなくなるのを待ち、旭丘に声をかけようとして後ろを振り返る。


 だがそこにいた彼女は、いつもの威圧的な態度からはかけ離れた、ひどく弱った様子だった。


「おい、大丈夫か?」

「……ええ」


 返事こそあるが、意識はこちらに向いていない。


 彼女は虚空を見つめ、変わらず制服を握りしめている。


 そんな旭丘に恐る恐る近づいたとき。


 ふっと彼女の体から力が抜け、こちらに倒れてきた。


「!?」


 俺は慌てて駆け寄り、なんとか受け止めた。


「お、おい……大丈夫かよ……」

「……ごめんなさい」


 あの旭丘にそう素直に謝られると、調子が狂う。


「ああもう、飲み物買ってくるからそこに座って待ってろ!」


 俺は積み重ねられたマットの上に旭丘を座らせ、走って自販機へと向かった。


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