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いつから俺の青春が『普通』だと思っていた?  作者: 結城 ユウキ
第1章 『普通』じゃない彼女

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第6話

 翌日の放課後、旭丘の痕跡を辿るため校内を闊歩していると、知佳からメッセージが届いた。


『旭丘さんがバスケ部に来た』

『すぐ向かう』


 そう返信してスマートフォンを手に持ったまま、俺は体育館へと向かった。


 部活動がいくら盛んでも、運動部の数はそう多くない。順番に回っていけばすぐバスケ部にたどり着くだろうと思っていたが、予想より早かった。


 それ自体は嬉しい誤算だ。


 あとはどう接触するか……。


 考えているうちに俺は体育館へと着いていた。二階のメインアリーナの入口には、若干の人だかりができている。旭丘の野次馬だろうか。


 その人混みをなんとか抜け体育館の中に入ると、知佳と旭丘が対峙していた。


 知佳はバスパンと呼ばれるダボッとした半ズボンにスポーツTシャツ、それにバスケットシューズと、見るからにバスケ少女の出で立ち。


 それに対して旭丘は、学校指定のジャージに身を包み、体育館履きという格好だ。髪を一つにまとめスポーツ仕様にしていることは見受けられるが、いまいち迫力に欠ける。


 加えて知佳は次期部長候補でエースだ。一年生のころから上級生の試合に出て、しっかりと結果も残している。普通に考えれば、素人ごときに負けるはずがない。


 そして今回の勝負はどうやら一対一らしい。


 通常の五対五であれば多少プレーが拙くとも、周りのプレイヤー次第でいくらでも誤魔化せる。だが今回は一人。プレーの質が如実に表れる。


 自分は経験者で、相手は素人。それだけで充分負けられない戦いだ。知佳目線では、ある種プライド的には不利な立ち位置にいるだろう。


 旭丘は勝っても負けてもなにも背負わない。


 だが知佳は違う。


 勝って当たり前で、もし負けたら今まで築いてきたものが足元から崩れてしまうのだ。


 そんな勝負、本来なら誰も受けたがらない。でもここで逃げる知佳ではないし、逆に燃えるのが知佳だ。だから相手として名乗り出たのであろう。


 デメリットしかない戦いでも、自らの役割を理解して使命を全うする知佳を俺は尊敬している。負けてほしくないと本気で思っている。


 三本勝負。


 先攻は旭丘だった。


 スリーポイントラインで対峙する二人。


 ボールを腰のあたりで構える旭丘に対し、腕を伸ばして旭丘に触れるか触れないかの位置で腰を落としてじっと待つ知佳。


 直後、旭丘が仕掛ける。


 ボールを低く下げ、右足に乗っていた重心を左足に移すと同時に踏み込み左足を大きく、そして素早く斜め右方向に出し、右手でドリブルを開始した。


 素人目に見てもかなり早かったが、知佳もそれは同じだったらしい。


 ワンテンポ遅れる形にはなったが、マークは外さない。


 だが、そのワンテンポが致命的だった。


 旭丘は知佳が追いついてくるのを確認して、大きく出した左足の下にボールを通し勢いを完全に殺す。そして後ろに下がった勢いを利用して後ろに飛び、スリーポイントラインまで戻る。


 その前の動きに少し遅れて反応した知佳は、その動きにも追いつこうとしたが後ろに行ってしまった重心を前に戻すのにもうワンテンポ遅れる。


 ブロックできる体勢に戻ったころには、ボールはすでに弧を描いてゴールへと向かっており、そのまま吸い込まれた。


 静まり返る体育館。


 ネットを過ぎて弾むボールの音だけが聞こえる。


 知佳も動揺を隠せない様子。


 そんな中ただ一人、平然としていたのは旭丘。


 彼女はさも当然といったようにボールを取りに行き、「次はお前の番」とでも言いたげに知佳にパスをした。


 それを受け取った知佳は切り替えようとボールをバチンと叩く。


 だが、一度崩されたリズムというものは簡単には取り戻せない。


 続く知佳のオフェンス。


 旭丘とは違い、ドリブルをしながら様子見をする。


 そして抜きにかかるが、当たり前のように旭丘はついてくる。フェイクや少しトリッキーな技を混ぜても、旭丘は食らいつく。


 知佳もなんとかシュートまで持っていくが、無情にもボールはリングに弾かれた。


 俺から見ても、知佳は完璧に抑え込まれていた。シュートも打ったというよりは、打たされたような、そんなイメージ。


 これで旭丘が一本先取。知佳はもう後がない状況に立たされた。


 続く二本目。


 先ほどとは違い、旭丘はドリブルをしながらタイミングを図っていた。


 対する知佳は、絶対に抜かせまいとする気迫のこもったディフェンス。素人にするものではないが、知佳がそれをするということは、旭丘はもうただの素人で片付けられる人物ではないということ。


 そのディフェンスが効いたのか、旭丘はうまくシュートまで持って行けず、苦し紛れに放ったシュートはリングにも届かなかった。


 後攻。良いディフェンスで流れを取り戻した知佳は、一本目と打って変わってキレのあるドリブルで旭丘を抜き去り、レイアップシュートを冷静に決める。


 これで互いに一本ずつ。次一本取ったほうの勝ちだ。


 先攻の旭丘は一本目と同様、腰の位置でボールを構えている。


 当然知佳も一本目のことは強く記憶に残っているだろう。素早い動きに対応できるようより腰を落としてディフェンスをする。


 だが旭丘は、関係なしといった様子で一本目と同じやり方で知佳を抜きにかかる。俺の感覚では一本目より早い。まだギアが上がるのか。


 けれど知佳はワンテンポ遅れることなく、旭丘の動きに完璧についていった。


 それでも旭丘は、知佳がついてきたのを確認してボールを股の間に通しバックステップでスリーポイントラインまで戻る。


 知佳も今度は重心をうまくコントロールし、シュートを打たせない距離まで体を寄せる。これで旭丘はシュートを打てない。これで仕切り直しだ、誰もがそう思ったとき。


 旭丘が詰めてきた知佳の股の下にボールを通して抜き去ったのだ。


 そのプレーに、ギャラリーからも「おお」という声が出る。それほどまでに綺麗で、決して適当に行ったプレーではなかった。


 虚を突かれた知佳が急いで戻るも、旭丘は落ち着いてレイアップシュートを決めた。


 一度引き寄せた流れを完全に持っていかれてしまった知佳は、後攻のオフェンスの精彩を欠きシュートを外してしまう。


 二対一で旭丘の勝ち。


 結果だけ見れば僅差だ。


 だが、そこには明確な差が、詰められない距離が確かにあった。それは恐らく、本人が一番感じていることだろう。


 呆然とする知佳を置いて、旭丘は何も言わず体育館を後にする。


 知佳のことも放っておかないが、今は旭丘を追いかけなければならない。俺は足早に去る旭丘の背を追いかけた。


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