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いつから俺の青春が『普通』だと思っていた?  作者: 結城 ユウキ
第1章 『普通』じゃない彼女

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第4話

 一週間後の放課後、俺はまたしても生徒会室にいた。ついでに小竹先生もいた。呼び出した本人であるところの会長はまだ来ていないらしい。


「先生も呼び出されたんですか」

「ああ、どうやら私も必要みたいでな」


 先生が必要な用事ってなんだろうと思いつつ、そこで思考を止めた。どうせなにか突飛なことに決まっている。考えたって無駄だ。


 そもそもここに呼び出された経緯も納得がいっていない。


 昼休みに湊と知佳とお昼を食べていると、教室に生徒会長が現れ、今日活動があることを告げられた。


先輩が後輩のクラスに来るというだけで本来目立つというのに、あの生徒会長が凡人であるところの俺を訪ねてくるのだからさらに目立って仕方ない。


会長が去った後の居心地の悪さたるや。思わず教室から逃げ出した。


 そして今日は本来、アルバイトのシフトが入っている日だった。家の最寄り駅の本屋で働いているのだが、急遽休みの連絡を入れた。


基本穴を開けることはないので今回はなんとかなったが、こんなことが頻繁に続けばさすがに立つ瀬がない。


 土日だけのシフトで許してもらえるかなあ……。でもなんか土日も活動とか言いかねないなあの会長……。


 自分の未来を憂いていると、ガラガラと音を立ててドアが開いた。現れたのは氷川雪華、この学校の生徒会長だ。相変わらず見惚れてしまうほど綺麗で、意識的に目を逸らす。


 俺の横を通り過ぎ、慣れた動作で自席についた。ちなみに俺の机や椅子は未だないので、さきほどから立ちっぱなしだ。というか、置かれることはあるのだろうか。


「待たせました。先生もわざわざ申し訳ないです」

「いえ」

「構わないよ」


 俺と先生がそう答えると、会長は自席に座ってすぐ、俺に話しかけてきた。


「さて、さっそく本題なのだけれど」


 アイスブレイクもなにもなく、冷淡な口調で会長は続けた。


「旭丘唯という生徒、わかるわよね?」

「はい、同じクラスですから」

「だったら、話が早いわ」


 会長は俺の両目を捉え、有無を言わさず態度でこう言った。


「あの子を生徒会に入れてほしいの。それがあなたの生徒会としての初仕事よ」


 またしても話が見えない。頭の良い人って過程ぶっ飛ばして結論話すよな……。


「一応、私にもわかるように説明してくれるか?」


 壁にもたれかかって聞いていた先生がすかさずフォローを入れてくれる。これだけ空気が読めてなんで彼氏がいないんだ。誰かなってあげて……!


「わかりました。立野くん、クラスでの旭丘さんはどんな感じかしら?」

「そうですね……」


 会長に問われ、考える。


 彼女とは新学期のあの日以来関わっていないが、それはもう自由に過ごしている。彼女の自己紹介での宣言通り、『普通』とはかけ離れた行動をしていた。


 彼女はとにかく型に嵌まった行動は避けていて、一般的な感覚であればその行動が正しいはず、という選択を絶対に取らない。


 真面目に授業を受けていることもあれば、寝たり内職したり、そもそも教室にいなかったり、途中で戻ってきたかと思えば「いい天気だったから中庭で寝ていた」と話したり、とにかく自分の好きなように行動している様子が見受けられた。


 ただ、クラスメイトから嫌われている、というわけではない。


 距離こそ取られているが、それはどちらかというと恐怖からきているものであり、決して全く関わらないという意思表示ではない。


 だが今のところ誰からも話しかけられてはいない。


「一言で言えば浮いてますね」

「そうよね。でも、それくらいで生徒会に入れようとなんてさすがの私でもしない」


 会長が続ける。そしてそれは、会長にとっては決定的な理由だった。


「彼女、部活に入る気がないらしいのよ」

「……それは」


 耳が痛い。


「しかもいろんな運動部に顔を出して対決を挑んでは圧倒的な勝利で部員の心を折っているらしいの」


 どんなバーサーカーだよ。


 確かに、旭丘唯のスタンスから見れば、この学校で部活に入ることは『普通』に値してしまう。だから入らないは彼女なりの理には適っているし、いわゆる道場破り的なものもあまりにも『普通』ではない。 


「それでいろいろな部活からクレームが来てね。彼女の手綱を握らなければいけないのよ。だから生徒会に入れて、ある程度彼女の自由を許しつつ管理する。それが目的」

「なるほど……」


 禁止されていることをあえて合法化した上でコントロールし秩序を保つ。それを会長は実践しようとしている。


 会長のやりたいことはわかった。とにかく完璧を目指したい会長としては、旭丘のような異分子が自由にしているのは困るのだ。


「でも、なんで俺なんですか? 会長が動くのが一番早いのでは?」


 わざわざ俺に依頼をしなくても、会長が自ら行動を起こしたほうが早く解決しそうなものだが。


「もちろん動いたわ、真っ先にね。でも駄目だった。あの子、私のこと知らないから」


 ああ、そういうことか。


 会長の威厳はある意味、会長のことを知っていてこそ成り立つものだ。この学校に来たばかりの旭丘が会長を知らないことは当然で、急に生徒会に入れと言われて首を縦に振るわけがない。


「弱みも握れそうにないし」


 さらっと怖いこと言うなあこの人!


「そこであなたの出番なのよ。やってくれるわよね?」


 なんだろうこの「はい」か「イエス」しか言えない質問は……。


先週から割と理不尽なことを会長にされている気がするが、不思議とこの人のことを恨んだり怒ったりする気は起きない。俺の平穏を崩したのは紛れもなく会長だが、この人はこの人なりの『普通』を実行しようとしているに過ぎないからだ。


 そして俺は、芯がある人間が好きだ。ブレずに、自分の信念を貫く。俺がそのスタンスでいたいからこそ、それを実行している人間が好きなのだ。自分の『完璧』を貫こうとする会長は好感が持てる。


 だから俺は柄にもなく、そんな依頼を引き受けた。


「――わかりました、やりますよ。ちなみにこれ、失敗したらどうなります?」


 正直失敗する気しかしないのだが。


「あなたにペナルティはないわ」


 でも、と会長が続ける。


「失敗すれば、この写真が学校中にばら撒かれます」


 会長は手に持っていたスマートフォンの画面を、俺には見えないように立っていた先生に見せた。


「!?」


 最初は目を細めて見ていた先生だったが、その画像の正体に気付くなり目を限界まで開けて驚いた。そしてどんどん顔色が悪くなっていく。


 見えてこそいないが、中身は大方制服を着た小竹先生の写真とかだろう。見たい。


「お前、いつの間に……」

「あの時に。いつか使えると思って」

「だ、だがなぜその写真なんだ。立野の失敗なんだから立野の恥ずかしい写真でもいいじゃないか」


 この教師やっぱり最低だな。


「それはもちろん、旭丘さんが先生のクラスの生徒だからですよ」

「う……」


 これはクリティカルヒット。あまりにも正しい論理には先生も反論できない。


 でもそこでふと疑問が浮かんだ。


「これ、俺失敗してもいいのか……?」


 俺が失敗してもペナルティがあるのは先生だけ。俺に何か直接降りかかるわけではない。必死こいて頑張る必要はないというわけだ。


「ちょ、ちょっと待て立野。私とお前の仲だろ……?」

「一回のみならず二回も生徒を売ろうとした教師が何を言ってんですか……」

「それは悪かった! 謝る! だから、な?」

「でもなあ……」


 頑張らなかったら先生の写真がばら撒かれるだけで、逆に頑張ったところで俺にはなにも褒美がないのだ。頑張るメリットが見当たらない。


「わ、わかった。じゃあお前だけのために制服を着よう。これならどうだ?」


 説得の仕方が狂っている。プライドないのかこの教師は。


 しかし舐められたものだなと思う。中学生のころならそれでイチコロだったかもしれないが、こちとら男子高校生だ。制服姿の人間なんて嫌と言うほど見ているし、いくらみんなが憧れている綺麗な先生の制服姿が見れるとしても、俺の心はそう簡単に動くものではない。だから俺は言ってやった。


「先生、俺頑張ります」


あれ? おかしいな……。そんなのには乗らないと格好良く断るはずだったんだが……。


「おお、立野! 信じてたぞ愛してる」


 あまりにも軽い愛の告白をしながら先生は俺の手をつかみブンブン振っている。


 そんな俺と先生の様子を、会長はゴミを見るような目で眺めていた。


 それに気づいた先生は咳払いをする。


「まあ、そんな感じで立野は頑張ることになったから」

「……どんな約束しようと勝手ですが、くれぐれも間違いは起こさないように」


 会長は俺を見ながら念を押してくる。大丈夫そんな勇気は一切ないです。


「別に私は間違いが起きてもいいけどな」


 あんたは黙ってろ。


 事態がこれ以上ややこしくなる前に、俺は会長に質問をした。


「期限はありますか?」

「そうね……」


 会長は手を顎にあてて考える。その仕草でも様になるのだから恐ろしいものだ。


「あまり長くとっても仕方ないわね。一週間後にしましょう」

「一週間……」


 関わりが全くない状態から生徒会に入ってもらうためのステップを踏ませるには、あまりにも短い期間だ。達成できる気は正直しない。


「伝えることとしてはこれくらいね。今日はこれで解散。結果、楽しみにしてるわ」


 一ミリも楽しそうに思っていない顔と声音でそう言い残し、会長は生徒会室を後にした。


「はあ……」


 会長が出て行ったことを確認したところで、俺は大きくため息をついた。


「どうした、幸せが逃げるぞ」

「それもう死んでる概念ですよ」

「なに…!?」


 ショックを受ける先生をよそに、俺は今後のことを考える。


 旭丘とは始業日のあの時以来、一度も話していない。こちらも関わる気はなかったし、当然向こうにも関わる気がなかったからだ。


さらに言えば、旭丘はクラスメイトと話すことも避けていた。理由こそわからないが、とにかく関わらないという雰囲気だった。


周りを拒絶している人間をどうやって生徒会に勧誘すればいいのか、やはり全く見当がつかない。


「そんな難しい顔をするな、立野」


 先生はそう言って、俺の頭を雑に撫でた。


「こんなの考えたところで結論なんて出るわけないんだ。どんと構えてぶつかってこい」

「そうは言いますけど……。こうなってるの先生のせいですからね?」

「まあまあ! 細かいことは気にしない!」


 くそ、この教師。いつか訴えてやる。


 けれどその言葉で、少しだけ気持ちが楽になった。


 元々頭で考えるタイプじゃない。まずは行動を起こす。それが自分に合っていると思った。


「まあ、とにかくやってみます」

「ああ。褒美も期待しとけ」

「セーラー服でお願いしますね」


 こうして、旭丘唯生徒会勧誘作戦が始まった。


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